第18話『ユキに対する侮辱の言葉は許容出来ない』
新キャラ登場。
重要キャラになる............かも、知れない。
後、累計PVが5000を突破しました。
有難うございます。
王都フェイルムに着いてから約一週間が過ぎた。
何をしていたかと問われると、何もしていなかったと答えてしまうぐらい特筆すべき事は何もなかった。
だからと言って自堕落に生活していたわけではなく、広い王都を探索してみたり、試せる範囲で魔法やスキルの効果を確認してみたりしていたのだが、今は割愛する。
そんなこんなで王都の生活にも慣れてきた俺達は、久々に冒険者ギルドへと向かっていた。
金銭的には仕事を受ける必要など無いのだが、ただ使うことしかしなければ金はいつかは無くなる。
それに一応Sランク冒険者なのだし、多少は仕事をした方が良いのではと思った為だ。
まあ正直に言うと、この王都でやる事が殆ど無くなったからというのもあるのだが。
閑話休題。
冒険者ギルドは前に来た時と変わらず活気――というより熱気――に満ちていた。
特に目的も無く来た為、取り敢えず依頼が張り出されている掲示板へ向かうことにする。
と、そこでユキから声が掛かる。
「リウス。ちょっとお花摘みに行ってくるね」
「ん? ……ああ、行ってらっしゃい」
言葉の意味が一瞬理解出来ずに固まってしまった。
何せリアルで『お花摘みに行ってくる』なんて単語聞いた事が無かったものだから。
そんな言葉を使うのはお嬢様だけかと――ってユキは財閥の娘だったか。正真正銘お嬢様だ。普段は全くそんな感じは受けないので忘れていた。
ユキと一旦別れ、一人で掲示板を確認する。
「特別難しい依頼は無いか」
パッと見た感じ、Aランク以上でなければこなせないような依頼は出ていなかった。
まあそんな頻繁に人外レベルの化け物に出てこられたら、この世界はとっくに滅んでいるだろう。
掲示板を流し見していると、ちょっと気になる依頼を見つけた。
別に依頼そのものは何の変哲もないモンスター退治。
俺の目を引いたのはその討伐対象の『ゴブリン』という文字。
RPGなどのゲームを一度でもやった事がある人なら、必ず聞いたことがあるだろうゴブリンという名前。
殆どのゲームに於いて、ゴブリンはスライムと並んで最序盤に出てくるモンスターだ。
魔法や冒険者が存在するこの世界にゴブリンがいたとしても何の不思議もない。
だが俺が気になっていたのは『ゴブリン』というモンスターそのものでは無く、『ゴブリン退治』という依頼の多さだった。
現在この掲示板に貼られているだけでも三枚のゴブリン退治の依頼書が貼られている。
そしてそれはフィレストのギルドでも同じだった。
毎日の様に掲示板を確認していた訳ではないが、少なくとも確認した時には必ず一件はゴブリン退治の依頼があった。
そして俺はその依頼を受けている冒険者を殆ど見たことがない。
見かけたとしてもそれは、FランクやEランクの冒険者が殆どだ。
何故この依頼を受ける冒険者が少ないのか。その理由の一つとして挙げられるのが、ゴブリン退治は稼ぎにくい依頼だということ。
モンスター一体の討伐額は街やその時々によって変わるが、今貼り出されている依頼は全てゴブリン一体につき一〇〇ガルンと書いてある。
正直かなり安い。
この世界の物価が安いのか、それとも一ガルン=一円ではないのか定かでは無いが、この世界はあまりお金が掛からない。
物価が安いのではなければ、おそらく一ガルンは八〜十円程度だろう。
もし仮に一ガルン十円だとしても、モンスター一体討伐の報酬が一〇〇〇円は安過ぎると言える。
つまりこのゴブリン退治は冒険者に成り立ての素人が小手調べに受ける程度の依頼なのだ。
なら金額を上げれば良いのではと思ってしまうが、ゴブリンは数が多く、単体では大した力を持たないモンスターだ。なので金額を引き上げるのが難しいのだろう。弱いモンスターを狩るだけでは、大した金も経験値も手に入らない。それはゲームも現実も同じなのだ。
その為、依頼の多さと比べて、受ける冒険者が圧倒的に少ないこの仕事は常に掲示板に貼られている。
だから、という訳では無いが、俺はこの依頼を受けてみることにした。
ゴブリン退治は素人が小手調べに受ける依頼。
つまり殆どの冒険者が一度は受けるということだ。
今後冒険者として活動していくのであれば経験しておいて損ということは無いだろう。
貼り紙を取ろうと手を伸ばしたその時、後ろから声が聞こえた。
「ゴブリン退治なんか受けるのか。素人が」
「……はい?」
それが自分に向けられた言葉だと理解するのに多少の時間を要した。
突然の罵倒の言葉。
声がした方へ振り返ると、そこには金髪碧眼の少年がいた。その後ろには三人の女性も。
少年の外見は十五歳から十八歳といったところだろうが、顔つきが外国人の為確証は無い。人種が違うだけで途端に年齢というのは分からなくなる。
って、それは今どうでも良い。
(誰だこいつ?)
少なくともこの世界に来てからこんな人物には出会っていない。
というより、金髪碧眼で整った顔の上、真っ白な鎧と真っ赤なマントを着てる奴なんて一度見たら忘れない。
そんな始めて出会った人物に突然罵倒される様な覚えは無い。
と、そんな事を考えていると周りの冒険者がコソコソと何かを話しているのに気が付いた。
『またあいつか』
『腕が立つからって調子に乗りやがって』
『今度のターゲットはあいつか。可哀想に』
などなど色々聞こえてくる。
どうやら目の前にいるこの少年は、王都にいる冒険者にはそれなりに知られているらしい。
尤も、良い意味では無いようだが。
「あの、どちらさ――」
「受ける依頼が決まったなら退いてくれよ。邪魔だから」
こいつの口ぶり。周りの反応。それらを総合して考えるに、おそらくこいつは相手が俺だから口が悪いわけじゃない。相手が誰であろうとこういう態度なのだろう。
言い返すだけ無駄だと判断してさっさとここを去ることにする。
「ゴブリン程度しか倒せない奴は冒険者なんか辞めろよ。雑魚」
そんな言葉をサラッと無視し、受付に向かおうと体の向きを変えると、いつの間に戻ってきたのか、そこにはユキが立っていた。
「戻ってたのか」
俺のその問いかけに答えることなく、ユキは俺の後ろにいる少年に視線を固定したまま口を開く。
「後ろの人、誰?」
「さあ。俺も知らないが――」
その答えを聞くや否やユキはさっきの少年の元へ歩いて行く。
その表情は、怒っているように俺の目には映った。
「あの。ちょっと良いですか」
「おい、ユキ」
折角スルーしたのにこちらから声を掛けてしまっては意味がない。
そんな俺の思いとは裏腹に、ユキは更に少年へ詰め寄る。
ユキの言葉には明らかに怒りが込められていた。
「さっきリウ――彼に言ったこと、撤回して下さい」
「誰だよ。お前」
「彼の――仲間です」
返答に一瞬間が空いたのは、この前の出来事が理由だろうか。
尤も、今はそんなことを考えている場合では無いが。
「撤回っていうと? どの言葉だ?」
「あなたが彼に対して言った言葉の全てです」
「断る。撤回しなければいけない理由が分からないな。雑魚に雑魚といって何が悪い」
「――リウスの方が、君なんかより強いよ」
その言葉は、意図したものでは無く、無意識のうちに零れ出たもののように感じた。
その瞬間、少年が纏う雰囲気が変わった気がした。
「俺がその男より弱いと? ハッ。どうやらお前の目は相当――」
「――よせ」
気付いた時には、俺は二人の間に割って入っていた。
「俺のことを何と言おうと構わないが、ユキに対する侮辱の言葉は許容出来ない」
――この時、初めて分かった気がした。
何故ユキがわざわざ少年に突っかかったのか。
きっと、今の俺の気持ちと同じだったのだろう。
久々に感じた怒りの感情。
俺はその勢いで、要らないことまで言ってしまった。
「そこまで自分の腕に自信があるなら俺が相手になってやる」
「……へぇ、面白い。叩きのめしてやるよ」
◇◇◇◇◇
冒険者ギルドには、冒険者が無料で利用出来る施設が幾つか存在する。
数ある施設の一つに『訓練場』と呼ばれる施設がある。
フェイルムのギルドの三分の一を占めるこの施設はその名の通り、冒険者が新たな武器を扱う練習をしたり、新たに習得した魔法を試し撃ちしたりなど、様々な用途で使用される。
この訓練場がただの運動場と違う点。それは運動場と違い屋内である事。そしてこの施設内では一切の外傷を負わない事の二つだ。
訓練場内では一切の物理ダメージは精神ダメージへと変換される。
分かりやすく言うと、例え剣で斬りつけられようと、槌で頭部を殴られようと、魔法によって爆破されようとも、痛みを感じるだけで怪我をする事は無い。
では死亡する事は無いのかと問われればそれは違う。
強い痛みを受けた事によるショック死を防ぐ事は出来ないし、即死魔法の効果を打ち消す事も出来ない。
あくまで外傷を受けないだけだ。
因みにだが、フィレストの冒険者ギルドには訓練場は無い。
理由としてはこの施設の特殊性と施設自体の大きさだ。
施設の性質上屋内の必要がある訓練場は、どうしても規模が大きくなってしまう。その為、小さな村や町の冒険者ギルドには設置する事が出来ないのだ。
そして俺は今、その訓練場の一角で先程の少年と対峙していた。
俺が勢いで口走ってしまった『相手になってやる』という台詞。
その決戦の場として選ばれたのが、ここ訓練場という訳だ。
提案したのは俺。
戦って勝利するのが目的であって、痛め付けるのが目的では無い。
つまり相手へ配慮しての提案だったのだが、この少年は俺の提案を聞いた途端、やれ腰抜けだの臆病者だの言い始めた。のだが、少し挑発したらあっさりとそれに乗ってきたので、訓練場で勝負するという事で話が纏まったという訳だ。
「一方が気絶、失神などで戦闘不能になるか、降参すれば決着。武器、魔法の使用制限は無し。但し即死魔法の使用は禁止。ルールはこれで良いか?」
「ああ、構わない」
少年と十メートル程距離を取り、ポケットから銅貨を一枚取り出す。
「このコインを投げて地面に落ちた瞬間からスタートだ。準備は良いか?」
無言で剣を抜く少年を見て、それが了解の合図だと受け取る。
銅貨を親指で弾き、俺も剣を抜く。
弾かれた銅貨が暫くの滞空の後、音を立てず床に落下した。
最近、ある程度作品の設定が固まってきたので、最初に決めた設定を直しているんですが、変更部分が多過ぎて嫌になりそうです。
尚、これまでの物語には影響しませんのでご安心を。




