プロローグ2
どうせならプロローグは全て投稿してしまおうかな、と。
突然だが、『MMORPG』というネットゲームのジャンルをご存知だろうか?
MMORPGとは『Massively Multiplayer Online Role-Playing Game――マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム』の略語であり、『大規模多人数同時参加型オンラインRPG』とも呼ばれる事がある。
そんな数多くあるMMORPGの中でも、一際人気を誇っているタイトルがある。
【APOCALYPSE】
PS重視、探索しがいのあるオープンワールドのフィールド、豊富な武器、自由度の高い戦闘、膨大な組み合わせが可能な職業、いくら時間があっても足りない程のやり込み要素。
などなどの理由から高い人気を誇っていたのだが……。
◇◇◇◇◇
今日はそんな『アポカリプス』のサービス終了日。
正式サービス開始から十周年を間近に控えたある日、突然運営より告知されたサービス終了のお知らせ。
十年近く経っても未だ人気の衰えないゲームだっただけに、ネットニュースや某巨大掲示板は大騒ぎ。
大勢のユーザーが運営に対し、サービス継続を望む電話やメールを送った為、運営の電話回線がパンクするなどの事件が発生するほど。
だが現在はそれも収まり、サービス終了を惜しみつつも、殆どのユーザーはサービス終了を受け入れつつあった。
◇◇◇◇◇
俺は羽川秋斗。26歳独身だ。
プレイヤーネームはリウス。
俺はこのゲームで一時期『最強』と呼ばれていた。
このゲームには八体のボスモンスターが存在する。
そして俺は、このゲームにおいて唯一『単独』で、全てのボスを撃破した事のあるプレイヤーだ。
まあそれは俺の就いている職業が、公式チート宜しく、チートじみた能力を持っていたからでもあるのだが……。
ボスを全て単独撃破した俺は、明確な目的を果たした達成感からか、そのままゲームを辞めてしまった。尤も、他に辞める理由がある事にはあったのだが。
そして、俺がアポカリプスのサービスが終了するという話を聞いたのは、俺がゲームを辞めてから二年が経った頃だった。
◇◇◇◇◇
「サービス開始からやっていたから、八年もやってたんだよなぁ。このゲーム」
俺は今、アポカリプスを始めて誰しもが最初に訪れることになる『始まりの街』に来ている。
無論、ゲームキャラで、だが。
始まりの街は、既にログインしていたプレイヤー達でごった返しており、ラグが発生するほどになっていた。
恐らく、これほどのプレイヤーが一つのエリアに集まったのは、少なくとも俺の記憶の中ではサービス開始直後以来のはずだ。
サービス開始直後でも、ラグが発生したりすることは無かったアポカリプスのサーバーを以ってしてもラグが発生しているのは、暗にサービス開始時よりもプレイヤーの数が遥かに増えている事を物語っていた。
キャラクターの男女比は4:6といったところだ。
MMORPGでは珍しく、比較的男性アバターを使っているプレイヤーがこのゲームには多かった。
まあ、実際のプレイヤーの比率は8:2ぐらいだと思うが。
「未だに人気があるな。このゲームは……」
賑わうワールドチャットを見ながらそう呟く。
二年もゲームから離れていたが、やはり終わってしまうとなると少し寂しくなる。
しかし、何故こんなにも人気があるのにも拘らず、サービスを終了するのだろうか?
プレイヤーの誰しもが疑問に思っているであろう事を考えながら、このゲームでの思い出を振り返っていた。
思い出に耽っていると、運営からアナウンスが入る。
『それではこれより、運営から最後の挨拶を始めさせて頂きます』
時刻は現在、午後十一時四十五分。
サービス終了が十二時なので、恐らく挨拶が終わればそのままサーバーダウンとなるのだろう。
『サービス開始から本日で十年。皆様には大変長い間このゲームをプレイして頂き、深く感謝しております』
運営が挨拶をしている間にも、ワールドチャットでは、
「なんで終了しちゃうの〜?」
「これ終わったらどこ行こうかなー」
「これほどハマるゲームにはもう会えないかもなぁ」
などと様々なことを話している。
運営の挨拶は続く。
『非常に沢山の方々からサービス継続を望む声を頂きました。このゲームがここまで愛されていると知り、とても嬉しく思います』
その発言にワールドチャットが騒めく。
「おっ、これはもしや?」
「まさかの終わる終わる詐欺? (笑)」
「いやいや、そんな馬鹿なw」
「みんなそれフラグになってるから!」
無論、本気ではない。みんな薄々勘付いていた。
『ですが我々はサービス終了の決定を覆すつもりはありません。また、新作のゲームなども予定しておりません』
またチャットが騒がしくなる。
「折れたああああw」
「デスヨネー」
「新作ゲームは期待してたんだけどなぁ」
「鬼畜運営(笑)」
そんなやり取りを見ながら、俺はチャットにも参加せずに、ただただサービス終了時刻になるのを待っていた。
俺に声を掛けてくる者は、誰もいない。
かつては一緒にプレイしていた仲間もいた。
ボスを単独撃破する際の作戦を考えてくれた仲間もいた。
だが、俺がゲームを辞めてからその繋がりも途切れてしまった。
彼らは俺の事を憶えているだろうか?
尤も、憶えていてもあまり良い印象はないだろう。
仲間達の引き留める声を跳ね除けて俺はゲームから去ったのだから……。
そういえば一人だけ、何度も何度も引き留めてくれた奴がいたな。
名前は確か――。
『以上を以って、運営からの挨拶を締めくくらせて頂きます』
そんな事を考えている間に、どうやら運営の挨拶は終わったらしい。
時刻は十一時五十五分。
あと五分で終了だ。
……最後にダメ元でワールドチャットに呼び掛けてみようか。
――いや、止めておこう。
もう会うことも、無いだろうしな。
サービス終了のカウントダウンが始まる。
『10!』
『9!』
『8!』
『7!』
『6!』
最後なんだし、俺も参加するか。
『3!』
1と入力し、その時を待つ。
『2!』
エンターキーに指を乗せる。
『1!』
ああ、楽しかったな。
――最後は、貴方にしましょうか
そこで俺の意識は、途切れた。
次話から本編開始です。