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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第1章《異世界転移編》
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第12話『諦めるという選択肢は無い』

物語の主人公特有のトラブル巻き込まれ体質。

「何かあったのかな?」

「分からない。だけど、あの様子はただ事じゃなさそうだな」


 先程の大音量の放送。

 その声はギルド内の宿屋や酒場だけではなく、外にいた冒険者にも聞こえた様で、ギルドには夜にも関わらず、それなりの数の冒険者が集まって来ていた。

 再び、放送が流れる。


『現在ギルド内にいる冒険者の方々の中で、Cランク以上の冒険者の方は、至急受付までお越し下さい!』


「……行ったほうが良さそうだな」

「そうだね」


 受付カウンターにはいつもより多くのギルド職員が待機しており、その中にはミュエさんの姿もあった。


「ミュエさん。何かあったんですか?」

「リウス様にユキ様。詳しい事は奥の会議室でお伝えします。ですが、何時でも戦闘可能な状態でお願いします」


 つまり戦闘になる可能性があるという事だ。

 化身の次は一体なんだ……?


「分かりました。着替えた後、直ぐ向かいます」

「はい。よろしくお願いします」


 着替え自体はメニューを操作すれば一瞬なのだが、一瞬で服装を変える手品師になるつもりは無い。

 早着替えのような魔法が無いとは言い切れないが、念の為部屋で着替えたほうが良いだろう。



 ◇◇◇◇◇



 着替えを済ませ、以前『炎神の化身』討伐作戦会議で使用した会議室へ向かうと、そこには既に冒険者が集まっていた。

 そしてその中には、ニーグとヒルリースさんの姿も。


「来たか」

「悪い。遅れたか?」

「いや、説明はまだだ」

「そうか。今回の招集について、ニーグはなにか心当たりってあるか?」

「心当たりと言えるほどではないが、今この町近郊で何かあるとするならば、十中八九あの森ではないかと思っている」

「またあそこか……」


 俺とニーグが話し合っていると、ミュエさんと50代ぐらいの男性が部屋に入ってきた。

 ん? チラッとこっちを……気のせいか?


「……あの人、誰だか知ってるか?」

「ん? ああそうか、リウスは知らないのか。この町のギルド長だ。アレインギルド長」

「ああ、あの人が」


 アレインという名の男性は、髪を短く切り揃え、威厳のある、自分にも他人にも厳しそうな人物だった。

 周りの冒険者からは「ギルド長が出て来るなんて何事だよ」という声が聞こえてくる。

 ニーグに聞くと、ギルド長は普段あまり人前には出て来ない人物らしく、ニーグも実際に見るのは初めてらしい。


「こんな時間の突然の招集に集まってくれて感謝する。私はこのギルドのギルド長をしている、アレイン・リンダースだ」


 ん? リンダース?

 それって確か、ミュエさんと同じ名字だった気が……。


「事は急を要する。早速説明に入らせてもらおう。ミュエ」

「はい。既にお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、現在この町に向けて魔物の大群が進行中です。今回はこの魔物から町を防衛することが目的となります」


 神の次は魔物の大群ですか。

 あまりにも事件が発生し過ぎじゃないか? ここには小さくなった名探偵でもいるのだろうか。


「現時点で集まった冒険者はA〜Fランク全て合わせて七十二名です。今回はこの人数で任務に当たって頂きます」


 七十二人か。前の炎神の化身討伐任務の時はDランク以上だけで五十七人いた。それに比べると少なく感じる。


「なあニーグ。この前の依頼に比べるとかなり人数が少なくないか?」

「この前は王都からかなりの冒険者が来ていたからな。それが終わった今、殆どの冒険者が帰ってしまったんだろうな」

「なるほど」


 これぐらいの人数がこの町本来の冒険者の数という事だ。


「それで、魔物の数はどれぐらいなんですか?」


 近くにいた冒険者から声が上がる。

 そしてミュエさんから出た答えに、その場にいた冒険者は凍りついた。


「現在確認されている時点で百以上、魔獣は確認されていません。発生源は炎神の化身が出現した森と思われます。ですが、現在確認されているのは、あくまで森の外にいる魔物のみですので、森の中にはさらに多くの魔物がいると予想されます」

「最低でも……百以上……?」


 俺は未だこの世界の常識には少々疎いが、それでも百以上という数が多い事は容易に理解出来た。

 簡単に言えば、野生の肉食獣が百匹迫ってくるようなものだろう。


「……魔物がこの町に着くのには、どれぐらい掛かるか分かりますか?」


 先程とはまた別の冒険者が問いかける。


「数は多いですが、進行速度は全体的に遅いようです。到達まで推定一時間といったところですね」

「それでも一時間ですか……」


 町に魔物が来ているならば、町の住人の避難もさせなければならない。

 だが今は既に日の落ちた時間帯だ。

 スムーズに全住民の避難をさせるのは難しいだろう。

 そんな中、一時間で避難を完了させるのは不可能に近い。


「時間は無い。冒険者の数も足りていない。既に日が落ち暗く、視界も悪い。だが、我々に諦めるという選択肢は無い」


 ギルド長はそう言うが、実際に戦う冒険者の表情は暗い。

 だがそれも、次の一言で一変した。


「もう既に引退した身だが、今回は私も前に出る」

「ぎ、ギルド長も⁉︎」

「町の危機だぞ? 命令を出した後、後ろで踏ん反り返っている訳にはいかんだろう」


 え? ギルド長って戦えるの?

 チラッとニーグを見ると、こちらが何も知らないのを察してか説明してくれた。

 なんでも、ギルド長は若い頃冒険者をやっており、(かつ)て大陸最強とも呼ばれていたらしい。

 それに憧れて冒険者になった者も多いとの事で、ニーグがギルド長を知っていたのもこの為だ。

 その話を疑っている訳では無いが、試しに【敵情報解析】を発動してみる。


【名前:アレイン・リンダース(56)】

【レベル:121】

【性別:男】

【種族:人間】

【職業:戦士】


「嘘だろ……」


 平均レベル20のこの世界でレベルが100以上もあれば、そりゃ大陸最強とも呼ばれる訳だ。

 そんな人物が一緒に戦うと言っているのだ。

 冒険者達の暗い空気は何処かへ吹き飛んで行った。


「ギルド長と一緒に……?」

「おいおいおい、マジかよ!」

「ギルド長が戦うってのに俺達が戦わない訳にはいかねぇなぁ!」


 本当に凄い人なんだな。


「では時間も残されていない。早速作戦会議を始めるとしよう」



 ◇◇◇◇◇



 作戦会議が終わり、Dランク以下の冒険者への説明も済み、俺達は今、町の外に出ていた。

 最終的に集まった冒険者は全部で七十四名。

 作戦会議の結果、Dランク以下の冒険者は町の防衛。

 Cランク以上の冒険者は、魔物を討伐しつつ、発生源と思われる森へ向かう事になった。

 因みにギルド長は、数の多いDランク以下の冒険者達と共に、町の防衛に当たることになった。

 森に向かう冒険者は七十四名中、十七名。

 Cランク以上は高ランクと言われるだけあり、全体から見てもかなり少ない。

 因みにAランクは俺とユキ、ニーグとヒルリースさんの四人だけだ。


「では君達は魔物を倒しつつ森へ向かい、魔物発生原因の調査。我々は君達が取り逃がした魔物から、町を防衛。私は森へついて行く事は出来ないが、戦う事に変わりは無い。健闘を祈る」

『おお!!』


 こうして、計十七名からなる調査隊は森へ向かう事となった。



◇◇◇◇◇



 暫く進むと、まだ少々距離があるが、複数の魔物が見えてきた。

 因みに今俺は、保有スキルの1つである【視覚保護】を発動している為、日の出ていない夜でも昼のように周囲を見渡す事が出来る。

 ……なんか俺のスキル、現実世界で便利なものが多過ぎやしませんかね? まあ、選んだのは俺なんだけれども。


「ニーグ、まだ少し距離があるけどこの先に魔物の群れがいる。準備をした方が良いと思うぞ」

「この暗さで見えるのか?」

「あー、まあ、な」


 当然だが、見えているのはスキルを発動している俺だけだ。

 さて、なんて言い訳をしたものか。


「あー、いや。他人の詮索は御法度だったな。すまん」


 なるほど。そんなルールがあるのか。

【敵情報解析】のスキルを知られたら怒られそうだ。


「ん、あれか……?」


 暫く歩き先程よりも距離が縮まったことで、どうやらニーグにも見えたらしい。


「見えたのか?」

「まだ影だけ、だがな。しかし、物凄い数だな」


 パッと見ただけでも五十から八十ぐらいは居る。

 数は物凄いが、敵のレベルはさほど高くなく、平均15〜20程度だ。

 それに対してこちらは全員が30レベル以上ある。

 ゲームを基準にすればただの初心者集団だが、この世界では人並み以上に腕の立つ者達だ。

 自分より低いレベルの、それもただ突っ込んでくるだけの相手に負けるような者はいない。


「もうそろそろ魔物と接触する。みんな準備をしてくれ」


 歩きながらニーグが他の冒険者に告げる。

 その声に呼応して、皆がそれぞれ自分の武器を手に取る。

 魔物との距離、約三十メートル。


「行くぞ!」


 ニーグの掛け声と共に、全冒険者が走り出した。



 ◇◇◇◇◇



 魔物との接触から、約三十分。

 戦闘は、冒険者側の優勢だった。

 そう。優勢“だった”のだ。

 最初は魔物との強さの差から、冒険者側が魔物を圧倒していた。

 だが、倒しても倒しても後ろから現れる魔物に、冒険者側は次第に疲弊していき、士気も低下していった。

 魔法を主体に戦っていた者はMPが切れたのか、今は杖や棍で魔物を殴り殺し、剣を振っていた冒険者は疲労からか、剣の太刀筋にはキレがなくなってきていた。

 今やまともに戦えているのは、俺、ユキ、ニーグ、ヒルリースさんとBランク冒険者一人のみとなっていた。

 このままではジリ貧になっていくのは目に見えていた。

 俺とユキの二人だけであれば、魔法を使い一気に消し飛ばす事も出来たのだが、今そんな魔法を使えば他の冒険者も巻き添えにしてしまう。

 覇気で最大HPを一にすることも考えたが、急激に魔物が弱くなれば周りの冒険者も不審に思うだろう。

 そんなことを考えつつ、飛び掛って来る鳥の姿をした魔物を切り飛ばしていると、同じく魔物を剣で殺していたニーグが声を掛けてきた。


「リウス。おかしいと思わないか?」


 近付く魔物を切り捨てつつ、俺も答える。


「おかしいって、何がだ?」

「魔物の数だ。今までどれぐらい殺した?」

「数えているのが馬鹿に思えてくるぐらいは殺したな」

「ああ、俺もだ。だがこの数は流石におかしい」


 それは俺も考えていた事だ。

 戦闘が始まってから、俺達は殆ど前に進めていない。

 殺しても殺しても穴を埋めるように次の魔物が後ろから現れる。

 終わりが見えないのだ。


「そう、なのか? 俺はあまり詳しく無いんだ」

「百体以上の魔物の群れというのがそもそも前例が無い出来事なんだ。それに加えて後ろから現れる魔物の数も合わせたら、二百体なんて優に超えるだろう」

「つまり、どういう事だ?」

「魔物を召喚している者がいるのではないかと、俺は思う」

「魔物を召喚? そんな事が出来るのか?」

「分からない。だがこの状況はそうでもなきゃ説明が付かん」

「じゃあ、どうするんだ?」


 もはやまともに戦闘出来ているのは俺達だけになってしまった。

 犠牲者が出るのも時間の問題だ。


「なあ……リウスは後、どれぐらい戦えそうだ?」

「ん? まあ、この調子なら相手がどれだけ来ても戦えるとは思うが……それがどうかしたか?」

「どれだけ来ても、か……なら、森に向かってくれないか?」

「森に?」

「……原因があるとすればあの森だ。その原因の討伐を頼みたい」

「それは構わないが……ニーグは来ないのか?」

「……正直、今でさえギリギリだ。このまま行っても役には立たないだろう……」


 よく見るとニーグの顔にも疲れが出ていた。

 全身を鎧に包んで全力で剣を振るっているのだ。

 多分これが普通……いや、これだけ戦える者も少ないのだろう。


「……分かった。ユキも連れて行くが、持ち堪えられるか?」

「長く持って数十分だな……それ以上は厳しい」

「……そうか。なら厳しいようだったら撤退してくれ。ある程度は倒して行くが、抜けていく奴もいるだろうから、町でそれを対処してくれ」

「了解した。頼んだぞ」

「ああ。ユキ! 森へ向かうぞ!」

「うん、分かった!」


 少し離れた位置――と言っても十数メートルだが――にいたユキに声を掛け、俺達は森へ向かい走り出した。



 ◇◇◇◇◇



 二人が森へ向かい、その姿が見えなくなった頃。


「速いわね……あれだけ戦った上であの速さで走れるなんて、何者かしら……」


 弓導士のセニアは、もう既に矢が切れており、今はダガーで戦っていた。


「さあな。だが今は任せるしか無い」

「そうね……。ところで、さっき持って数十分とか言ってたけど、何であんな嘘付いたの? もう限界でしょ?」

「……バレてたか」


 正直、もう殆ど気力で戦っているような状態だ。とてもじゃないが数十分も持ち堪えるのは不可能だった。


「当たり前じゃない。ニーグより遥かに軽装備の私が限界なのに、鎧を着てるあなたがまだ戦える訳ないでしょ」

「……まあ、先輩としてのちょっとした意地だ」

「……ユキちゃん達に対して意地なんか張っても無駄だと思うわよ。今回ではっきり分かったけど、彼らの強さは桁が違うわ……」


 数十体以上の魔物を倒しても息切れ一つしない体力。多数の敵を相手にしているにも関わらず、一度も攻撃を受けない集中力。一度も外さない攻撃の正確さ。どれを取っても、格が違う。


「一体、何者なんだろうな……」


 そんな会話をしつつ、戦闘を続けていたその時、違和感に気が付く。


「魔物の数が、減ってる……?」


 今まで幾ら倒しても減らなかった魔物だが、今は明らかに数が減っていた。

 最初は疲労で幻覚でも見ているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「まさか、あの2人が……?」

「本当、何者なのかしら……」


 二人の疑問に答える者は、何処にも居なかった。

視覚保護とか、普通に欲しいです。

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