第10話『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
今回で第10話ですね。
もう少しこの町の話が続きます。
図書館に着いて、本を読み始めてから数時間。
普通に本を読むのと違い、何かを調べる為に本を読むというのはそれなりに体力を使うもので、正直大分疲れた。
朝食が遅かった為、まだ昼食も取っていない。そろそろ小腹が空いてきた。
「取り敢えず、今日はこれぐらいにしとくか」
「そうだね。本読んでるだけなのに少し疲れちゃった」
今日だけでもこの世界の基本的な事については大体分かった。
十分とは言えないが、今はこれでも大丈夫だろう。
読んでいた本を閉じて元あった場所へ戻し、図書館を後にする。
因みに、利用料は無料だが貸出にはお金が掛かるらしい。
「さて、少し遅いけど昼食にしようか」
「うん。まだ行ったことの無いお店にしようよ」
「じゃあ色々見て決めるか」
街を歩き回った結果、洋風なレストランに入ることを決めた。
尤も、この世界には洋風も和風も無いのだが。
今回頼んだのは、一般的なトマトパスタ。
最近洋食ばかり食べているので、そろそろ和食が恋しくなってきた。
今更になって、料理を勉強しておけば良かったと思う。
チャチャっと食事を済ませ、ギルド内の宿に戻るその帰り道。
「ねぇリウス、あれってこの前いた人じゃない?」
ユキの視線の先には、炎神の化身討伐任務に来ていたAランク冒険者がいた。
布で顔を隠したあの無口な人だ。
「そうだな。というかあの格好で出歩いてるのか……明らかに不審者だな」
その人物の格好は、以前見かけた時と全く変わっていなかった。
本当、見ただけでは性別すら分からない。
……ん? 性別すら分からない?
そこで俺は、自分が便利なスキルを持っていた事を思い出す。
他人の個人情報を盗み見ている感じがして――というか事実盗み見ているのだが――少し気が引けるが……。
俺はちょっとした好奇心から、スキルを使って相手を見てみる事にした。
【敵情報解析】
「――っ、なんだ、これ……」
スキルを発動した瞬間、思わず、声が漏れた。
「リウス? どうかした?」
表示されたステータスは、これまでに無いものだった。
【名前:※※※イ〈※※※〉】
【レベル:※※※】
【性別:※】
【種族:※※※】
【職業:※※※】
殆ど文字化けして読めない上に、ステータスは表示すらされなかった。
今までスキルは全て正常に使う事が出来た。
これは、どういう事だ?
「リウス? どうしたの?」
「あ、いや、何でも、ない」
隠す理由など無いのに、咄嗟にそう答えてしまった。
部屋に戻ったら、ユキにも話してみよう。
視線を戻すと、先程までいたあの人物の姿は、もうどこにも無かった。
◇◇◇◇◇
部屋に戻り、先程の出来事について考えていると、ユキが先に口を開いた。
「リウス、さっきの事なんだけど……何かあった?」
「ああ、実は……」
俺はあの冒険者にスキルを使ってみた事。そして、スキルを発動させたがステータスなどを見る事が出来なかった事を伝えた。
「そうだったんだ……でも、なんでスキルで見れなかったんだろう?」
「今の所思いつく可能性は……四つかな」
一つ目、敵情報解析などのスキルを無効化乃至は耐性の効果を持つスキルを、あの冒険者が持っている可能性。
二つ目、敵情報解析などのスキルを無効化乃至は耐性の効果を持つアイテムを、あの冒険者が装備している可能性。
三つ目、スキルやアイテムではなく、この世界独自の『何か』によってスキルを無効化した可能性。
そして四つ目、スキルやアイテム、またそれ以外の『何か』でもなく、単純なレベルの差によるスキルを無効化した可能性。
「三つ目までは分かるけど……レベル差で無効化なんて出来るの?」
アポカリプスでは、レベル差によるスキルの無効化は出来なかった。
極端な話、レベル1のプレイヤーがレベル200のプレイヤーに対して敵情報解析を使ったとしても、問題無く発動するという訳だ。
尤も、ゲームではプレイヤーに対して敵情報解析を使うことは出来なかったが。
だが、もうここはゲームではない。
レベルの差でスキルが無効化出来る可能性が無いとは言い切れないだろう。
しかし、確証がないのも事実。
であれば、調べる他ない。
「ユキ、俺に何かスキルを使ってくれないか?」
「え? リウスに?」
「ああ、レベルの差でスキルが無効化出来るのか、確かめたいんだ」
「でも……」
「ユキって【威嚇】持ってたよな? あれなら良いんじゃないか?」
「あ、威嚇なら良いかもね」
【威嚇】は、獣人種が覚える事の出来るスキルの一つ。
発動中、効果範囲内の敵全員に攻撃力、防御力、敏捷性にペナルティを与える効果を持つスキルだ。
ダメージを与える効果を持つ訳では無いので、実験にはもってこいだろう。
「じゃあ、行くよ?」
「ああ、いつでも来い」
…………ん?
「あ、あれ?」
「え? 今発動させたのか?」
「も、もう一回やってみる!」
…………さっきより少しだけユキの目付きが鋭くなる。
が、別に怖いわけでも、寒気がするわけでもない。
雰囲気としては、小さな子供が親に向かって必死に自分が怒っていることを伝えようとしている様な、そんな感じだ。
正直、凄く可愛い。
気付いたら、頭を撫でていた。
「えっ? な、何?」
「あ、いや、無意識に、な」
「うぅ。で……どうだった? スキル発動させたんだけど……」
「特に変わった感じはしなかったな……」
「じゃあ、無効化されたってこと?」
確かに何も感じなかった。
が、ステータスにはちゃんと影響があったかもしれない。
しかし、それを確認する方法は無い。
ステータス画面に表示されるのはあくまで自身のステータス。
スキルにより低下したステータスが表示される事は無い。
「まだそうとは言い切れないな。何も感じなかっただけで、ステータスには影響があったかもしれない」
「でも、それは――」
「確認のしようが無い。だろ? だから今度は、ユキが俺のスキルを受けてみてくれ」
「でも、レベル差で無効化は出来ないよ?」
「いや、次確認するのは威嚇などのスキルで、精神的に何かを感じるかってことだ」
今回使うのは、【覇気】というスキルだ。
覇気のスキル説明は以下の通りだ。
【覇気】
・自身のレベルが相手より10以上高ければ、相手のHP、MPを除いた全ステータスにペナルティを与える。ペナルティ値は敵とのレベル差により変動。能力の使用選択不可。
・自身のレベルが相手より50以上高ければ、上記の効果に加え、敵に発動者の攻撃力の10%を、防御力無視の攻撃として継続的に与える。
但し、HPを1より減らす事は出来ない。能力の使用選択可。
・自身のレベルが相手より100以上高ければ、上記の効果に加え、敵の最大HPを1に低下させる。能力の使用選択可。
このスキル。アポカリプスをやった事が無い人からすれば相当なチートスキルに見えるかもしれないが、実際そこまで強くないのだ。
威嚇などのこういった能力ペナルティ系もスキルは、主にPvPなどの対人戦でこそ真価を発揮するのだが、考えてもみてほしい。
PvP時、レベル200のプレイヤーの相手は、基本的に皆レベル200。
そしてこのスキルは、“最低でも10以上レベル差が無ければ発動すらしない”。
もうお分かりだろうが、PvPでは正直全く使いものにならないのだ。
ではNPCが相手ではどうか?
敵MOBなどであれば100レベル以上差が開いている敵も当然存在する。
つまり最大HPを1にするという反則級の効果が発動する訳だが、これも考えてみて欲しい。
普通に考えて“自分より100以上レベルの低い敵MOBは、最大HPに関わらず、基本的に1撃で倒せてしまう”のだ。
なんとNPC相手でも使い道が無い。
良いところを上げれば、辛うじて上から2番目の効果が使えるぐらいか。
まあ、多少戦闘時間が短くなる程度の恩恵でしかないが。
某巨大掲示板では『運営は魔人種が嫌いなのではないか?』というスレが立ったほど、何故この様な効果なのか不明なスキルだ。
まあ、閑話休題。
「でも覇気って能力ペナルティ以外にも効果無かったっけ?」
「あるけど、あれは発動の有無を選択可能なんだ。勿論切ってあるから安心してくれ」
「あ、そっか。便利だね」
「今となっては……ね」
ゲームでは決して言われなかった言葉だな。
「じゃあ、行くぞ?」
「うん」
発動させようと意識を向けると、スキルの効果範囲や向ける対象まで、事細かに選択出来ることが分かった。
防御無視攻撃と最大HP低下の効果が発動しない様になっているのを確認した後、スキルを発動させる。
【覇気】
スキルを発動させた瞬間、糸の切れた人形のようにユキが崩れ落ち、ヨロヨロと壁まで後退り、そして膝を抱え震え始めた。
「…………え?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「……え、ユキ!?」
スキルを解除し、急いでユキの元へ駆け寄る。
膝を抱え震えているユキの目からは、涙が流れていた。
そこで俺は気が付いた。
してはならない事をしてしまった事に。
俺が何も感じなかったのは、レベルの差によってスキルが無効化されたから。
では無効化出来なければ?
現実となったこの世界で、覇気と名のつくスキルが、ただステータスにペナルティを与えるだけで済むはずがない。
現実となった事で、スキルの効果がゲームよりも名前に忠実になっているのはもう分かっていた事。
何故、そこまで考えが及ばなかった。
ユキを恐怖から守る為、一緒にいると約束したのに。
その俺が恐怖を与えてどうする。
「ユキ……」
「ぁ、リウ、ス……」
「本当に……ごめん……」
未だ震えるユキを抱きしめ、ユキが落ち着くのを、俺はただひたすら待ち続けた。
何やってるんだ主人公。




