第8話『化け物認定』
ちょっと短めです。
俺達は今、総勢五十七名という大人数で森へ向かい歩いていた。
五十七名もの大人が全員完全武装しているその光景は、かなり異様だった。
尤も、俺とユキもその中に含まれる訳だが。
「リウスはあの森に行った事があるか?」
ニーグが俺に問いかける。
つい先程までは性格的に仲良くはなれないかと思っていたが、話してみるとヒルリースさんの言う通り、本当に悪い奴ではなかった。
少なくとも名前で呼び合う程度には打ち解けていた。
「行った事がある、というかあの森を抜けてこの町に来たんだ」
「抜けてきた? よく無事だったな」
「ミュエさんにも同じ事を言われたよ。まさかそんなに危険な森だったとはね」
因みにユキは隣でヒルリースさんと話をしている。
ユキが明るい性格という事もあり、俺達よりも先に打ち解けていた。
因みにニーグが32歳。ヒルリースさんが31歳らしい。
何気なくニーグに年齢を聞いたとき、ニーグが自分の年齢を答えた後にヒルリースさんの年齢を答えようと「あいつは俺より一個下だか――」まで言いかけた瞬間、鎧に身を包んだニーグが2メートル程投げ飛ばされたのは衝撃だった。
弓使いを辞めて騎士にでもなったら良いのではないだろうか。
まあそれのおかげで【敵情報解析】を使った時に表示される、よく分からない数字が年齢だと分かった訳だが。
「リウス君。何か失礼な事考えてない?」
そして勘も鋭い。
実年齢より幾つも若く見える満面の笑みを向けながら、ヒルリースさんが俺に問いかける。
「いえ、なんでもないです」
「それはつまり何か考えていたってことね?」
「……」
怖い。怖いです。
300以上レベル差があるのに怖いってどういう事ですか。
そんなやり取りをしていると、まだ大分距離があるが、目的の森が見えてきた。
目が覚め、抜けてきた時と同じく、その森には緑が無く、そこだけ時間が止まっている様に見えた。
「見えてきたな」
先程まで会話していた声よりも、数トーン下げた声でニーグが告げる。
その声で今まで密かに聞こえていた話し声までもが聞こえなくなり、辺りは足音とカチャカチャという鎧のすれる音しか聞こえなくなった。
森が目前まで迫って来たところでニーグが口を開く。
「これから作戦開始となる。打ち合わせ通り、A班が盾となり攻撃を受け止め、B班が後方から攻撃。C班は遊撃だ。みんな準備は良いか?」
『おお!』
「行くぞ!」
隊列を組み、森へ入る。
目的の相手がいない事は分かっているが、新たに魔物が住み着いた可能性もある。
俺は念のため【空間把握】と【気配察知】を発動させる。
が、当然と言うべきか。スキルには何も引っかからなかった。
森を進む速度は、はっきり言ってかなり遅かった。
ただ森を抜ける為に歩いていたのとは違い、今は姿の見えない敵を警戒しながら進んでいる為当然とも言えるが、スキルによって敵がいない事を確認している俺からすれば、少し退屈になるスピードだった。
森を抜けた時と比べて倍以上の時間を掛けて、ようやく俺が黒い影を倒した辺りが近づいて来た。
尤も、この進行速度ではその場所に着くのはまだ先になりそうだが。
「未だ接触無しか……一体どういう事だ?」
「もしかして、この森を去ったのかしら?」
「であれば何故町に来なかった? 他の町や村に被害があった話は聞かないしな……」
俺が倒してしまったからです。なんかすいません。
「リウスはどう思う?」
「えっ? あー……そうだな。一回目の『風神の化身』の時はひとりでに消えたんだよな? 今回も消えたとかは無いのか?」
「可能性はあるかもしれんが、今までの『化身』は必ず人の多い場所に姿を現したらしい。今回だけ違うというのは不自然だな……」
俺が倒したと打ち明ける事が出来ればどれだけ楽なことか。
そう考えていると、まだ目視はできないが、俺が剣を“全力”で振るった場所が近付いているのを感じた。
どんな反応をされるのかちょっと楽しみでもある。
それをやったのが自分だと明かせないのは少し残念だが。
「ん? あれは……」
どうやらニーグが俺の戦闘跡を見つけたらしい。
尤も、あれを戦闘と言えるかは微妙だが。
少し歩くと俺が地面に付けた傷跡がはっきりと見えて来た。
その瞬間、ニーグやヒルリースさんを含めた冒険者達が息を呑む。
驚かないのは俺と、その光景が作り出される瞬間を目撃したユキだけ。
と、思われたが、もう一人驚いていない人物がいた。
5人いたAランク冒険者の一人、黒い布に全身に纏う人物だ。
驚いていないと言っても、布で表情が見えないだけで、実際どうなのかは分からないが。
「なんだ……これ……」
「地面が……割れてる……?」
反応を見るに、この光景はAランクの冒険者であっても驚く光景らしい。
もし冒険者がこの程度なら普通に出来るのであれば、警戒のレベルを引き上げたところだが、その必要は無さそうだ。
「一体誰が……?」
無反応はおかしいかと思ったので、それっぽい事を言ってみる。
隣のユキもそれに便乗する。
「『炎神の化身』がやったとか……?」
「それもあるかも知れないが、俺はここで戦闘が起きたのではないかと思う」
ニーグが答えに辿り着く。
それを正解だと教える者はいないが。
「どうしてそう思うんだ?」
「『炎神の化身』はこの森を一晩で焼き尽くすような化け物だ。この傷が誰によって付けられたものかは判らないが、もし炎神の化身がやったのであれば、それ程の力を出さなければ戦えない者が居たということ。別の誰かであれば、炎神の化身と同じかそれ以上の力を持つ化け物が他にも居るという事だ」
「想像もしたくないわね……」
その化け物を一撃で葬り去ったのが俺です。
会って数時間の相手に化け物認定される俺。なんか嫌になってきた......。
が、ニーグの推理は続く。
「もしコレが『炎神の化身』によるものではなく、第三者によるものであれば、その者によって炎神の化身は討伐されたのかもしれない。若しくは怪我を負わされ逃げ出したか、だな。そうならばここに炎神の化身がいないのも納得がいく。誰がやったのか? という疑問は残るがな」
もうなんか凄いですね。
まあ状況を正確に整理しているだけと言えばそこまでなのだが。
「じゃあこれからどうする? 一旦町に戻るか?」
「いや、もう少し捜索してから帰ろう。偶然遭遇していない可能性も無い訳じゃないからな」
それから更に一時間ほど森を捜索したが当然見つかる筈もなく、俺達は町へ戻る事となった。
◇◇◇◇◇
町に戻った後は直ぐにギルドへ報告に行くことになった。
一人も欠けずに戻ってきたことにミュエさんはかなり驚いていたが、ニーグが森に『炎神の化身』がいなかった事と、大きな地割れがあった事を伝えると、ミュエさんが奥へ何かを伝えに行き、そのまま依頼は終了となった。
討伐された訳では無い為、参加した冒険者に報奨金は支払われなかったが、森の捜索で『炎神の化身』がいない事を確認した事で、全員に五万ガルンが支払われた。
現在は地面を割り、化身を討伐、乃至は退けた者の捜索が行われている。
まあ俺は名乗り出るつもりは全くないので見つかるわけがないのだが。
そんな訳で今回の事件は、一旦の終息を迎えた。
◇◇◇◇◇
一通り事が済んだ後、俺とユキは部屋に戻る事にした。
部屋に戻ってすぐ、俺たちは二人してベットに倒れ込んだ。
「なんか……疲れたな……」
「そうだね……」
肉体的な疲れは殆どない。
ただ精神的に疲れた。
居もしない敵を警戒させられ、通常の半分も無い速度で森を歩く。
ただそれだけだが、たったそれだけの事がすごく疲れた。
今の時刻は3時ぐらい。休むのにはまだ早い。
「リウス、少し早いけど何か食べに行かない?」
「そうだな。早めに食べて早めに休むか」
鎧を脱ぎ服に着替え、準備を済ませる。
「よし、じゃあ行くか」
「うん! 何食べようかなぁ」
昨日も聞いたようなそんな声を聞きながら、俺とユキは部屋を後にした。
夜遅くに睡魔に襲われながら書いたので所々おかしいかもしれません。




