そのよん
「魔王様。これはどういうことですか」
「何故勇者どもがここに……」
「何故さっさと殺さないのです」
人に似てはいるが人の姿をとりきれていない魔物三体。
知能が高く力の強いだろうことは簡単に推し量れた。
勇者と魔王を真ん中に挟み、3人と3体は騒がしく言い争いを始める。
「何故殺されていない。お前らなど魔王様にかかれば一瞬だろう」
「なっ。その魔王様を殺すのは私たちよ!」
「己の力すらろくに扱えぬ者共が何を言う」
「これでもコントロールは出来るようになったのだが」
「所詮脆弱な人の子。消すのは簡単なことだ」
「……減らず口…今すぐ潰す……」
魔術士が放った衝撃波を魔王は咄嗟に相殺する。
自分と勇者の周りに薄く結界を張った。
薄いといってもかなりの丈夫さだが。
「なっ、魔王様っ!?勇者をかばうと言うのですかっ!!」
黙って。お願いだから。
満たされないのは、何故なのか。
私はちゃんと、気が付いている。
「あっちへお行き」
「お前の場所なんか何処にも無いんだよっ!」
「魔王様、人間どもがまた戦争を仕掛けに」
心無い言葉に傷付き、魔王としてだけの私を見る臣下に寂しく思い、そうしていつしか気持ちを置き去りにしていた。
昔から、私が願っていたことはただ1つ。
愛されたい。
誰かに、愛されたいーーーー。
愛しても、見返りのない愛はもう嫌なの。
欲張りな私は、見返りが欲しい。
「天藍」
名前を呼ぶ声に俯かせていた顔を上げる。
身長差に見上げる彼は悲しげな顔をしていた。
「……天藍。もう、終わらせようか」
こんな茶番。
魔王はひゅっ、と小さく息を呑み……そして頷いた。
仕方ありませんね、とやはり悲しげに。
「……そんな顔をさせたいわけじゃなかった」
勇者と魔王の会話に3人と3体は気付かないまま、未だ言い合いと力のぶつけ合いをしている。
「……ねぇ、ラピス。私、貴方と一緒に酒を飲めて楽しかったんです」
「…ああ、俺もだ」
「ずっと、いつまでも飲み交わしていられたら、なんて夢を見てました」
「そうだな、俺も見ていた」
「そうして、ここが大事なところですよ。……私、貴方が好きです。貴方に恋をしてしまったらしいんです」
最期に、と思い切って言った言葉は彼を固まらせてしまった。
やはり迷惑だったかと落胆し、けれど魔王は気丈に笑う。
「貴方に殺されるなら私、本望です」
勇者は魔王の言葉に目を見開き、ぐっと拳を握った。
「俺も、貴女のことが好きだ」
まぁ、と驚く魔王に勇者は続ける。
「だから」
「ーーーだから、大人しく殺されてくれ」
甲高く響く耳障りな音に3人と3体はそれぞれの仲間、或いは主人のいた場所を見る。
光の球体に包まれる二人。
「そんなっ!ダメよっ!!」
召喚士が叫ぶ。
「魔王様っ!」
魔物も叫んだ。
しかしその声はおそらく2人には届かない。
「……禁術…?」
「まさか、相打ちを…」
「そんな、魔王様が居なくなったら私たちはどうすれば」
一瞬光が弱まる。
彼らの目に映ったのは、幸せそうに笑い合う勇者と魔王の姿。
「ゆ、うしゃ……」
「ま、魔王さま……」
勇者は魔王を倒した。
そして世界に平和をもたらした。
しかし勇者は魔王と共に永遠にこの世を去る。
勇者の仲間3人は世界にその朗報と、訃報を伝えた。
喜びと悲しみに溢れる世界はなるほど確かに、あれほど願った平和を手に入れたのかもしれない。
魔王は勇者に倒された。
しかし決して負けたのではない。
我らが誇り高き魔王は、最期の最期に勇者を道連れにし、華々しくこの世を去った。
魔王の側近であった3体の魔物は世界に散らばる魔物たちにその報せを伝えた。
いつか次の魔王が復活する時までひっそりと暮らそうと決めた魔物たちはなるほど確かに、平和をもたらしたのかもしれない。
そんな変わっていく世界の端にある、静かな森に美しく華やかな女性と、精悍な顔立ちの青年がいた。
2人は仲よさげに寄り添い、時折笑いあっている。
「殺されると覚悟しましたのに」
「いや、魔王は殺した」
「言葉遊びがお上手なのね」
「言い訳をいろいろと考えて居たからな」
「…でも、これでやっと自由です」
「…そうだな。お互い、自由になれた」
「感謝します。魔王を殺してくれて」
「こちらこそ、勇者を道連れにしてくれてありがとう」
「……また、飲みますか?」
「そうだな。…これからはずっと共に居れる」
うっすら頰を染めて笑う魔王に、勇者はいたずらに笑うとその頰に軽く接吻した。
目を見開きますます顔を赤くする魔王に勇者は笑みを深める。
「も、もうっ」
「そういうところ、貴女は可愛いな」
「〜〜〜っ」
こんな拙作を読んでくださり、ありがとうございました。