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そのに

本日2度目の投稿です。


「それじゃ、次は貴女の話が聞きたい」

「私ですか?」



突然の言葉に魔王は少し首を傾げた後、頷いた。



「そうですね。フェアじゃないですもんね」

「ああ。フェアじゃない」



少々酒を飲むペースを落とした方が良いのではないかと忠告し、魔王は話し始める。



「そうですね…。もう随分と昔のことですけど、私も、昔は人里に住んでいたのですよ」




魔王が生まれたのは数百年くらい前までこの森の近くにあった筈の街だ。

もう長い時が経つので人から忘れ去られているだろうが、確かにその街は存在した。




彼女は忌子だった。


この国ではまず見ない黒髪に黒い瞳。

彼女の生みの母はそのことをひどく嫌悪した。

街の人も彼女の母に同情し、彼女はいつもいつも蔑みの目の中で生きてきた。



誰も彼女の世話をしてはくれなかったし、誰も彼女には近づかなかった。


それでも彼女が生きてこれたのは多分、人よりずっと強い生命力を持っていたからだ。

そしてそういうところも、ますます嫌われる原因だった。



彼女の瞳に映るのは自分を侮蔑し、時に嘲笑い、時に憎々しげに睨んでくる人の姿だった。

そういう姿を涙越しの視界の中で見なくなったのは、いつのことだろう。


彼女は泣かなくなった。同時に笑わなくなった。

ますます人が離れていったけれど、そんなのは彼女にとってもうどうでも良いことだった。



彼女が12になった年に、初めて彼女は自分の弟だという人物を見た。


弟だという少年は笑っていた。

彼女の母と一緒に、楽しそうに楽しそうに。


弟だという実感は沸かなかったけれど、ただそんな2人を見つめていた。



自分と同じ親から生まれたのに、境遇は天と地ほども違う。


不意に納得してしまったのだ。



ああ、やはり自分は、要らぬ子だったのだな、と。




同時に溢れた感情は、後から名前を知った。



“羨ましい”

あの子(おとうと)が、羨ましい”

“母と笑い合う、あの子(おとうと)が”



彼女はまだ子供だったから、その感情の収め方を知らなかった。

彼女は2人にふっと近づいてーーー、驚愕に染まる2人の首を刈り取った。



あたりが一面血の色に染まるまで、それほど時間はかからなかった。


ころしてしまったのだと、街1つ、自分が消してしまったのだと彼女は気付いたけれどもうどうすることも出来ず。



ただ、死ねたら良いなと森の中を彷徨い、そこで自分を魔王と呼ぶ魔物達に出会い、それから長い長い時を過ごして。


そうして、小屋で1人酒を飲んでいた時に、呆然と自分の姿を見つめる青年に出会ったのだ。




「貴女も随分苦労をされたようだ」



そう何処か苦く笑う彼を、彼女は知っている。

巷で勇者と呼ばれる存在である、ということぐらいは。



初めて出会った時は、やり合うのは大変そうだなと思った。

なにせ今まで出会った中で一番強い力を持った者だったから。



彼があの時、何を呟いたのか、彼女は知らない。

けれど、もうあれから柄に手をかけることはしない、それどころか剣すら持ってこない彼を少し…いや、かなり信用している。



彼は心外かもしれないが、彼は自分と何処か似ていると思う。



何かを諦めた目は、多分自分のそれとだいぶ似ている筈だ。




…もう少しだけ。

もう少しだけ、こうして酒を共に飲んでいたい。

いつか彼は自分に剣を向け、そしていつか自分は彼に殺されるだろう。


それでも構わない。


最期に思うのは誰かと酒を飲み交わす幸せな記憶(もの)でありたい。


ーーーたとえその酒を飲むという相手が、何百年も前から定められた宿敵であっても。






魔王はゆったりと艶やかに微笑んだ。


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