ある雨上がり
ある雨上がりのシーンです。ふと書いてみたくなったので。
コーヒーって前戯的?それとも後戯的?どっちだと思う?
そう彼女が尋ねた訳は、彼女はそれが飲めないからだとして、わたしはそもそも行為の後にはポカリスエットが一番好きだ。つまり選択肢としては、前者しか残らないから、選ぶとすれば前かなと、答えた。
じゃあ、もう始めてるの?
ウケるwと笑う彼女を見ながら、そうさ。と白く厚みのあるコーヒーカップに唇をつける。まさかこんなやり取りをするとは思わなかったから、わたしは戸惑いながら若すぎる彼女の金髪を眺めた。それから右手の人差し指と薬指のネイルが取れてるよと、言ったら、
もう二週間経つから。ふつうでしょ。
と、当たり前のように冷たいミルクティーのストローを咥えた。そうだ、彼女と以前会ってからそれ位だった。女は記憶力がいいなと、何時も思う。
濡れたテラスは雨上がりにひんやりとして、片隅のローズマリーは素焼きの鉢から放埓にはみ出ていた。このブロンズのテーブルセットも濡れていたのを、このカフェの店員に拭かせている間、彼女は若いコリアン女みたいな赤い口紅でタバコを吸った。わたしが喫煙者だったころ、その時の彼女たちの前で煙草を吸うことに何の躊躇いもなかった。今目の前の彼女は、わたしの前で喫煙することをどう思っているのか。
全然。慣れてるから。
座ろうとした蔦のレリーフのテーブルとイスはかなり冷えていたから、白いフェイクウールのショートパンツから出た腿の裏が冷たそうだと思って聞くと、そう言った。そして両腿をぴったりと閉じた。それからそれぞれにオーダーしたドリンクが運ばれてくるまでの間、わたしたちは通りを眺めた。水たまりがあちこちにあって、車が通るたびに小さく飛沫を上げている。歩道では、小さな犬たちが散歩している。生きたアクセサリーなのか、それとも満たされない形見のどちらだろうかと、話をした。
形見?ホントは何にもまだ無くなってないんじゃないの?
最初から無かったのかも知れない愛情なんて。彼女はそう言った。わたしたちの上に雲が速く流れていた。2階の見晴らしのいいテラスからは、案外空が近かった。今から失うものが多すぎる彼女と、もうたくさん失ってしまったわたしの間に、冷たい氷水のグラスがあった。新しい昼下がりの秋の光が反射して、二つの特別に純粋な六角柱に見えた。彼女はわたしにその白い右横顔を向けて、まだあの飼い主と小さな犬を追っている。白い顎に右手を添えていた。その手首を真っすぐ横切るリスカの痕が愛おしかった。
今は、この程度の分量が限界みたいです。まとまった文字数の小説を書くことは、思ったよりもエネルギーを費やしそう。もう少し充電が必要なようです。