七話
香と美咲についての独白。香視点。
「from みさき」。
何時もの様に送られてきた友人のメールを開いて、私は驚愕した。
その時、私は遅めの夜食(トーストにハムエッグを乗せた、手抜きの朝飯)を作っている所だった。オンボロだけれど、趣のあるトースターで二枚の厚切りトーストを焼いて…ってこんな話はどうでも良い。
とにかく美味しかった。間にバターを塗って、熱いうちに頬張った私の事なんてどうでも良い。何処にでもある、ただの日常に過ぎない。
黄身がとろけて太ももに垂れた事とか、特にどうでも良い。何故レタスを挟まなかった。炭水化物×動物性タンパク質で、口内は絶賛どろっどろである。兎に角不摂生と言う名の自殺行為に関しては、良い子は絶対に真似しないで欲しい。それにコーラをお供につける等外道も良いところである。
私は悪い子なのだ。未成年が見るチェリーボンボンの次ぐらいには、悪い子だ。
私の自慢話はそれ位にして、美咲の事。彼女は今何か悩みがある様で、それを親友の私にさえ話せないでいる。態々私を水族館に誘って。つまりはそれほど軽い話ではないと言う事。真面目な様で何も考えてない彼女が、深刻に水槽を見つめて、酷く哀しそうな目をしていた。これは何かあったな、それ位は気付く。
巨大なジンベイザメを見て、ペンギンとアシカショー見ても彼女の顔は曇っていて、海月の水槽はじっくり見た割りにイルカには興味無し。は虫類が怖いのは分かるけど、それにしても海月って。大の大人が幼稚園児に混ざって海月って。
それからは比較的元気な様子だったけれど、やっぱりぼんやりしていたのは事実で、私の予感が正しければ男関係だなと思っていた。
で、問題のメール。
起きてたから良いんだけど。
「こんばんは、突然失礼します。美咲さんとお付き合いさせて頂いてる者です。」に始まり、うだうだ面倒臭い長文が続いて、様は彼女から水族館に行った話を聞いた「自称彼氏」が、私と彼女の仲を疑ってメールしてきたと言う訳だ。多分、彼女は止めた事だろう。何しろアドレスは非通知では無く、本人から送られているのだから。それは色んな誤解を生むし、彼女自身の沽券にも関わる。
それにしても彼氏いたんだ。いない事はないだろうけど、そんな風には見えなかった。
本文の途中まで流し見して、濃厚トーストが逆流しそうになったので、メニュー画面に戻った。そう、「自称彼氏」の被害妄想メールの内容は、この際どうでも良い。バナナジュースとトマトジュースの差位どうでも良い。結局はジュースだ。現代社会に不足しがちな類いの。
本文には、彼女が入力したであろう文章は一切無かった。つまり男が勝手に疑い、勝手に彼女の携帯からメールを寄越したと言う事になる。今彼女の隣にいる男は、そう言う人間なのだ。
そして文末にはこう書かれていた。
「直接お話させてください」と。
少し考えて、反射的に手が動いた。
「いつもの所で待ってるから、大学の帰りにご飯行こう」。
あの暗闇は私と彼女しか、知らないのだから。