奴隷市場にいくんですけど?
翌朝、起きてみると、玄関先で母親が猫にエサをやっていた。白黒の毛並みで、あまり体は大きくなく、飢えていたのだろうか、少しやせている。エサの魚にがっついているのを、母親が撫でていた。猫はこちらに気付くと、嬉しそうに鳴くと、足元にまとわりついてきた。昨日の泥棒猫である。母親は照れ臭そうに、猫を飼うことにしたの、といった。悲しそうに鳴いてたから、つい飼うことにしちゃった、とのことである。適当である。猫はそれに相槌を打つように、もう一度鳴いた。名前を考えなくちゃね、と母親は言った。泥棒猫というのはどうだろうかと提案した。
「駄目よそんなの!可哀想でしょ!濡れ衣を着せるなんてひどいじゃないの」と一蹴された。事実なのだが。猫が足をパンチしてくる。それを軽くいなしながら話を続ける。妖怪猫又らしいし、長いからタマでいいのではないかと言った。母親も気に入ったらしく、この猫の名は、タマになった。その瞬間、体からごっそりと魔力が抜けていく感覚があった。「名付け」のせいだ。人外だというのは本当だったのだろう、ただの動物に名付けをしても、なかなかこうはならない。タマはあくびをすると、身を丸くして眠りについた。かなりの魔力を食らったのだ、しばらくは眠ったまま動かないだろうな。
休みだということもあり、母親がペット用品を買うというのでついて行った。ペット、つまり奴隷市場だろう。この辺りは治安も良いようだし、奴隷市のようなものがあるようには、簡単に探索した限りでは見受けられなかったが。本をたくさん所持できるような貴族の住むところならば、あるとすれば奴隷商館だが、襲撃や魔法を防ぐような結界を張ってあるような場所もなさそうだった。私が元々いた世界とは違う常識もあるようだし、やはり実際に行ってみないことには分からないことはあるのだろう。
商店街を抜け、人通りの落ち着いた住宅地の中に、その奴隷商館はあった。ずいぶんとこじんまりとしているし、襲撃に対する結界や衛兵なども置いていないようだ。母親は特に気にせずに中へ入ってゆく。中には所狭しと囚われた動物たちが檻の中へ閉じ込められていた。人間や獣人はいないようだ。ここはあくまで動物専門らしい。念のため、母親に動物専門の奴隷売り場なのか尋ねた。母親は、少し、悲しそうな顔をした。私の目線までしゃがみ込み、目をまっすぐ見ながら言った。ペットとは、奴隷でなくて、家族なのだ、と。この世界の常識は難しい。家族を買うのだから。養子のようなものだろうか?私が考え込んでいると、母親は私の頭を撫で、立ち上がりながら言った。
「あの猫ちゃんを飼うことにしたのも、そういう事をもっとあなたに知ってもらいたいから何だけどね」母親は笑った。私は頷いた。
それから、ペット用のトイレや食料、そして首輪や鎖などを買った。それと、しつけ用の鞭らしきものを母親は買っていた。それらの荷物を持ち、家に帰った。