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侵入者がいるんですけど?

闇魔法、通称、外道魔法。ときに人の悪意を操り、ときに人の道を外れた思想の者が堕ちる魔導の道。魔力の鍛錬で、この闇魔法のレベルを優先的に上げた。どうしても必要な魔法があったからである。いま、その魔法を発動する。影が世界に溶け込み、世界が影に溶け込む。夜の闇に紛れ、屋敷が影に呑まれた。少しずつ、影が元の屋敷の外観へ偽装してゆく。数秒も経たないうちに、すべては元通りになった。少なくとも、見た目だけは。


結界魔法。先ほど発動したのは、闇魔法の中でも影を操る結界を作り出す魔法である。結界内の動きはすべて術者によって感知され、術者及びその仲間に様々な恩恵を授ける。護身のための感知結界を張り終え、魔力の鍛錬に戻った。しばらくすると、結界にかすかな違和感を感じた。それは、ほんのわずかな違和感だった。暗殺者でさえ気づかれずに結界内へ侵入するのは不可能だった。だが、何かがおかしい。意識を結界の感知に集中させた。驚くべきことに、何者かが結界の中に侵入していたのだった。


侵入者は、月明りの中、音もなく窓から入り、闇の満ちた廊下を迷わずに進んでゆく。重力を感じさせない軽やかな身のこなしで素早く移動し、目的の部屋の様子を、半開きの扉から伺う。誰もいないことを確認し、そっと扉の中へ滑り込んだ。静かに目的の場所のそばまでにじり寄ると、机の上に載っている皿の中にある透明な覆いをかけられた魚へ手を出し。

「動くな」首筋にナイフ。

「にゃにゃにゃああああ!?!???!?ほげえええええええええええ??????」

全身の毛を逆立たせ、弾かれたように飛び出して逃げようとしたが、侵入者はあっさりと取り押さえられてしまう。

「結界を欺いて侵入してくるからどんな輩かと思ったら、猫だったか」

「ふしゃああああああ」首根っこを取り押さえられて暴れる侵入者。

「ふむ、反抗的な猫だな。殺すか」

「ヒエッ、そ、それはやめてほしいにゃ!」

「ほう…人語を解するのか。面白い。まあいい。質問に答えろ。返答によっては殺す」ゴクリ、と侵入者の喉が鳴った。

「何が目的だ?暗殺か?」

「ち、ちがうにゃ、アタシはただお腹がペコペコだったからそこの魚が食べたかっただけにゃ!誰かを傷つけようなんて思ってないにゃ!」手足をばたつかせながら侵入者は答えた。

「なるほど…悪意や敵意の反応がなかったのはそのためか」

「わ、わかってもらえたかにゃ?それじゃあ、まずアタシを開放して―」

「お前はなんだ?魔獣か?」

「マジュウ?マンジュウの一種かにゃ?アタシは妖怪『猫又』。長生きしてたら、いつの間にかこうなってたにゃ」

「妖怪か…せっかく面白そうなペットが手に入るかと思ったのに殺すしかないのか……」

「!?なな、なんで殺されなきゃいけないにゃ!!!!」

「妖怪は悪さをするんだろう?ならペットは残念だが殺すしかないな」侵入者の首筋をつかんでいる手に力が加えられる。

「い、いや!!ちょっと待つにゃ!!いい妖怪もいるにゃ!!!!!」首筋にかかる力が止まった。

「そうなのか?」

「そ、そうにゃ」

「だが貴様はさっき勝手に魚を食べようとしたと」

「あ~~~っ!!お腹いっぱいだにゃあ~~!!お魚なんかたべられないにゃあ~~!お魚なんてにおいを嗅ぐだけで十分だにゃ~~!」

両者の間に沈黙が流れた。

「ぐぎゅるるるる」

沈黙を破ったのは、侵入者のお腹の音だった。

「こ、こここ、殺さないで欲しいにゃ!まだ三味線になりたくないにゃ!」魔王は、軽く微笑むと、侵入者を地面に降ろし、侵入者が先ほど手を伸ばした料理を差し出した。

「い、いいのかにゃ?」

「構わんよ。歯向かう気がないのなら、別にいい。その代り、きれいに食えよ」

「あ、ありがとうにゃ!!」侵入者は魚にがっついた。

「うまいにゃ~~~!生き返るにゃ~~!三日ぶりのお食事だにゃ……!」侵入者は感極まった様子で食事をしていた。魔王は、それを興味深そうに眺めていた。


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