魔力を鍛えることにしたんですけど?
身の安全がいくらか確保されていることが確認できたので、情報収集と並行して魔力の鍛錬を行うことにした。これは通常、ある程度成長してから行うべきだとされているが、それは間違いだ。幼少期より体中を通る魔力線に魔力を通してゆくことで、純度の高い魔力の生成と円滑な魔法形成が行えるようになる。一般的に言われているような魔力鍛錬の適齢期では、肉体の成長も遅くなってしまってからになってしまうので、魔力線の成長が損なわれてしまう。魔力線の太さやしなやかさは肉体的成長の終わった成人であっても鍛えることはできるが、子供が本格的な鍛錬を行った成長速度には及ばない。幼少期、それも若ければ若いほど魔力の生成量や純度に影響を与えることができるのである。
両親が寝静まったころ、鍛錬を開始する。全身に漂っている生命力のような、柔らかい力の塊をイメージする。それらを外に逃がさずに、皮膚の下を水のようにゆったりと流れている感覚を意識する。そして、それがすこしずつ、すこしずつ速く流れていくようにする。体を通る魔力線の一本一本を捉え、まだ魔力が流れることに慣れていない場所に丁寧に魔力を流してゆく。まずは左手の肩口からひじにかけて、魔力線をむやみに傷つけないよう、数時間かけて魔力の開放を行っていった。それでもまだ目標には程遠いが、終わったころには全身を滝のような汗が流れ、激しい疲労を感じていた。呼吸も荒い。少し意識も朦朧とするが、この肉体がいま使える魔力のほとんどを使ってしまったのだからしょうがない。
スキル「魔力開放」を取得しました。
スキル「魔力操作」を取得しました。
スキル取得を告げる声が頭の中で響いた。まずは無事に魔力が通ったようだ。命の危険がない程度(といってもその限界ギリギリのライン)の負荷でこれからも続けようと思った矢先、母親が起きてきた。まだ夜深い時間帯である。彼女は寝顔を確認しようとこちらへきて、何の気なしに額に手を触れた。そして、彼女の顔が凍り付いた。彼女はすぐに寝床の父親を起こすと、私を抱き、夜更けにも関わらず、大急ぎでどこかへ連れて行った。おそらく医者だったのだろう。しばらくの間そこで待ち、薬らしきものを受け取ると、私たちは家に戻った。私は彼女がもらった薬を飲んだ。額に水で濡らした布をかけられた。彼女は私の頬をやさしく撫でた。彼女は泣いていた。彼女は夜が明けるまで、ずっと私の寝床の横にいて、静かに私を見守っていた。私は、魔力の鍛錬にかける負荷を少しだけ軽くすることにした。