貴族の家に転生してしまったようなんですけど?
赤ん坊用の寝床で目をつぶりながら魔王は今まで見聞きした情報を整理していた。
わかったことはいくつかあるが、まず一つ目は、自分はどうやらかなり裕福な貴族の家に生まれたらしい、ということ。その根拠は、大量の蔵書を所有していることである。書物というものは本当に貴重な品であり、平民ではまず手に入れることはできないものだ。しかも、普通の貴族でさえせいぜい写本を一、二冊持っている程度で、それも中身を理解していないものがほとんどだ。宝の持ち腐れといってもいい。それほど貴重な本が、この寝床から確認できるだけでも数十冊はある。これはもう大した数だというほかない。よほどの金を積まなければ、これほどの数をそろえることはできない。しかも、この家の者はすべて読み書きができるらしい。ただ書物だというだけで、中身も読めずにありがたがるような貴族ではないようだ。かなり高度な教育を受けていると見受けられる。そして、それを惜しげもなく赤ん坊に伝えようとしているのだ。この国の伝記や、言葉の読み書きを率先して教えてくれている。これは正直ゼロからこの世界のすべてを学ぶには非常に役に立つ。そして、興味深いのが、こうした教育を父母が行う、ということだ。これはこの貴族一家の方針なのか、この世界で一般的なものなのかはわからないが、どうやら手をかけて育ててくれるつもりらしかった。身の安全という点に関していえば、喜ばしいことである。
そして、この家の人間たちは、高度な魔術知識も有しているようだった。自由に明かりを調節する光魔法や、制御された火魔法、そして、どのような複合魔法なのかは知らないが、映像を黒い板に投影する魔法や、杖のような媒体を使って、遠くのものと通信する魔法を使うようだ。闇魔法や風魔法の亜種だろうか?それとも血族の固有魔法だろうか?私も見たことがない魔法であり、非常に興味深い。どうやら、私の知らない世界に転生してきたという仮説は、ますます信憑性を帯びてきてしまっている。この世界で生き抜くすべを、引き続き模索していかねばならない。
身の安全という点についてであるが、この貴族の家庭における差し迫った危機はなさそうだが、気になる伝記があった。母親が読み聞かせる伝記の中に、人間が「鬼」という存在に昔から脅かされてきた、という内容があった。鬼は人間を喰らい、人間と対立していたらしい。鬼ヶ島という鬼の本拠地があり、そこを根城に人間たちを侵略していたらしい。人間たちの反攻作戦によりその前線基地は壊滅したそうだが、その後の鬼たちの行方まではわかっていないようである。この「鬼」というのは、私がいた世界でいう魔族に相当するものかもしれない。