家来を綺麗にするんですけど?
「あのぅ……ご主人、アタシは一体どこに連れていかれるのにゃ?」タマは猫の姿でひなたぼっこをしていると、突然、魔王に首根っこを掴まれたのだった。今は荷物でも持ち運ぶような形で運搬されていて、上目づかいに尋ねた。魔王が歩く際の手の振りに合わせて、ぷらーり、ぷら-りと揺れて、借りてきた猫のようにおとなしい。
「風呂だ」魔王は手短に答える。そうこうしているうちに風呂場に着いた。魔王自身が風呂に入るわけではないので、服は脱がない。目的は、この猫を洗うことである。小汚いままで家の中をうろつかれてはたまらない。
「にゃるほど、お風呂……ってえええええ!?嫌にゃ!アタシは奇麗にゃ!」
「汚れてるだろう」魔王はタマを浴室に放り込み、後ろ手に扉を閉めた。
「毎日毛づくろいしてるにゃ!!薄汚いドブ猫だなんてあんまりな言いぐさにゃ」タマは四つ足で着地すると魔王に抗議した。
「そこまで言ってないぞ」そう言いながらシャワーの温度を確かめ、ダニなどにも効力のある猫用シャンプーを置いた。水は冷たい。
「ま、まさかご主人……そのドロリとした液体をアタシの体にぶっかけたりなんかしにゃいですよね?」タマは後ずさりする。
「残念だが、そのまさかだ」魔王の口から出たのは、無慈悲な宣告だった。
「ぎにゃあああああああああ!!こ、殺されるー!おぼぼっぼぼああああああおっぼぼぼぼ」タマは正面から水をかけられた。目を開けられず、抵抗しようにもこの狭い浴室の中では逃げ場はない。口にも水が入り、もはや何を言っているのか分からない。少ししたところで水は止んだ。
「ぜーっぜっー……」息も絶え絶えのタマに頭からシャンプーがかけられる。
「あ、あの」タマはおびえた目つきで魔王を見上げた。そこには嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
「あああああああああああああああああ出してくれにゃあああ!!アタシは無実にゃああああああ」何とかして脱出しようと、人間の姿になって全裸のまま逃げようとするタマ。だが、あっさりと魔王に捕まって、引き倒されてしまう。
「いやああああああああ犯されるうううううううううううううううううううううううう」
その時、ガチャリと扉が開いた。その向こうには母親が立っていた。数瞬の間、止まる時間。母親は表情も変えず、扉を閉じた。魔王は、仰向けで全裸のタマの顏をぺしぺしと素早く叩きながら、おい、猫に戻れと小声でささやいた。タマがきょとんとしているので、もう一度、急げ、と言い、タマが猫の姿に戻った瞬間、勢いよく浴室が開けられた。母親は目を白黒させながら浴室を見回した。
「いま女の子がいたような気がしたけど……」
気のせいだよ、と魔王は言い、泡まみれの猫を優しく撫でる。猫は、にゃーにゃ―言いながら暴れている。逃げてしまうから閉めてほしい、と言うと、母親は首をかしげながら扉を閉めて、戻っていった。足音が遠ざかっていく。魔王は安堵のため息をついた。
「ご主人、そろそろ開放してほしいにゃ」とタマは言う。魔王はそれを無視し、お湯が出るまで待ってタマを洗い流してやることにした。
「ふおおおお?!あったかくてきもちいいにゃあ~」先ほどまでの抵抗とは打って変わって、ご機嫌のタマだった。洗い終わるころには、もう一度シャワーを浴びたいと頼んでくる始末だった。
「さて、じゃあ乾かすか」そういうと、魔王はタマの首根っこを掴んで持ち上げ、ドライヤーのスイッチを入れた。
「ぎゃああああああああああああ殺されるううううううう誰か助けてくれにゃあああああああ」そして、しばらくタマの叫びが続くのだった。




