家来が少女になったんですけど?
夜、魔王は目覚める。結界の中で小さな動きがあった。次の瞬間、どこから現れたのか、人影がベッドの上から襲い掛かってきた。両手で魔王の肩をがっしりと掴むと、その頬をひと舐めする。ざり、と粗い舌触りがする。魔王は嫌そうに人影を押し返しながら言う。
「……何の用だ?」
「ご主人、見てくださいにゃ!アタシ、ご主人のおかげでもんの凄い事になっちゃったにゃ!」ベッドの上には月明りに照らされて、あどけない少女がいた。おぼろげな光の中に映し出されている肢体は、衣服をまとっておらず、肩まである髪が光を幾重にも瞬かせている。猫だった姿の毛並みを反映しているのだろう、銀髪と黒髪がくっきりと分かれていて、右の六分ほどが銀髪で輝きの中を静かに揺れ、残りの黒髪は、月の光を優しく受け止めていた。
「力があふれてくるにゃ!」少女は嬉しそうに言う。
「まぁ、そうだろうな。『名付け』で私の魔力をあれだけ食ったのだから。」腹が減っていたにしろ、食い過ぎだがな、と魔王は思った。
「おおおお!ご主人、名前まで付けてくれたんですかにゃ!?ありがとうございますにゃ」
「ああ、お前の名前はタマだ」魔王は少女の名前を告げた。すると少女は汚物でも見るような目で魔王を見つめた。
「ご主人、センスないにゃ」
「は?」
「どうせならジョセフィーヌとかエリザベスとかそういうアタシの可愛らしさを最大限まで引き出す名前がよか」
「お前の名前はタマだ」魔王は少女の言葉を遮った。
「うーん、もっとこう、スカーレットとかアンジェリーナとかあるじゃにゃいですか」
「タ、マ、だ」有無を言わせない口調だ。ちょっぴり怒気を含んでいた。
「それとも何か?貴様はそんなに私の付けてやった名前が気に入らないのか?ん?」
「うう、分かりましたよう……。これでも感謝してるんですから、本当ですよぅ」どうやら少女の名前はタマで決まりのようだ。魔王が口を開いた。
「ところで、貴様、服くらい着たらどうだ」少女は顔を赤らめ、胸を押さえて窓から飛び出した。
「ご主人のバカ!変態!」ここは二階だが、少女は空中で軽やかに一回転すると、猫の姿に戻り、少し走って、暗闇へと溶け込んだ。




