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ミステリー・レコード弐  作者: 天海 扇
壹の弐 柊rabbit
6/22

No. 6

 午前の授業が終わり、昼休み。

 僕は柊さんの席を確認する、が、どうやら既に席をたった後のようでそこに彼女の姿はなかった。

「……」

「お~い四津木! 一緒に昼ごはんを食」

「悪い山田。ちょっと今日は用事ある」

「おうぜって……あっちょい、四津木!」

 僕は山田からの誘いを断って立ち上がると、廊下に出て左右を確認する。

「……」

 廊下に柊さんの姿は見当たらなかった。

「トイレ……か……?」

 他の場所を探しに行くかこの場で少し待つか、どちらを選ぶか迷っていると女子トイレの中から顔見知りが出てきたことに気づく。

 三宅(みやけ)さん。背がまあまあ高く眼鏡をかけている、髪型をポニーテールにしているクラスメイト。

「なぁ三宅さん」

 僕は柊さんを見たか聞こうと声をかけた。

「気安く話しかけないでください」

 結果この様である。

「い、いや、ちょっと待ってよ三宅さん」

 僕は立ち去ろうとする彼女に再度声をかけて引き留める。

「ですから、話しかけないでくださいって……あら、あなた室戸くんじゃない。気づかなかったわ」

「知らないで話していたのか!?」

「しょうがないじゃない。顔を見てなかったんだから」

「そろそろ声を覚えてくれてもいいんじゃないだろうか……というか、このやりとり前もやったぞ」

「そう。不愉快ね」

「何で!?」

「それにしても、失言だったわ……まさかあなたにあんな言い方するなんて」

 三宅さんは右手で自分の額を押さえてため息をつく。

「え、いや、そんなに気にしなくても僕は全然大丈」

「まさかあなたなんかに敬語を使ってしまうなんて」

「気にしてんのそっちかよ!?」

「悔やんでも悔やみきれないわ……」

「クラスメイトなんだし敬語で話せなんて言わないけど、そんなに嫌がらなくても」

「あなたにはわからないでしょうね」

「わかるわけないだろ……」

「ねぇ、今のどうだった?」

「は? 何が……?」

「今の、記者会見で泣いていたお騒がせ議員を物真似したものだったのよ」

「は……?」

 ……え、今の何の感情もこもってない発言があの議員の物真似!? 似てる似てないの問題じゃないぞ……。

「似ていたかしら」

 似ていたかって……そりゃ……。

「スゴクニテイタゾー」

「棒読みね。死になさい」

「どぅわっ!?」

 上半身をとっさに仰け反らせる。すると目の前を細い何かが通りすぎていった。なんなんだ今のっ……!

「あ、危ないじゃないか!?」

「何で死なないのよ」

「理不尽すぎるっ……!」

 僕は彼女が手に持っている物を確認する。どうやら、くしの持ち手部分で攻撃してきたようだ。

「優しい私が選ばせてあげるわ。刺されて死ぬのと切り刻まれて死ぬならどっちの方がお好み?」

「残念ながら僕にそんな好みはない!」

「えっ……あ、そう……そうよね。じゃあ話題を変えましょう」

 とても残念そうな表情をしたな、今……。

「あなたは、くしとはさみ、どちらがお好み?」

「絶対話題変わってないだろそれ!」

「じゃあ何だったら良いのよ」

「何もかもダメだ」

「はぁ……で、何の用? 用がないなら話しかけないでってこの前言ったと思うのだけれど」

「言ってましたねそんなこと……」

 やっと本題に入れるな……。話がずいぶんとそれた……。

「中で柊さん見なかった?」

「ストーカー……」

「違うっ」

「いないわよ。今は誰も」

「そっか、ありがとな」

「別に感謝されるようなことはしてないわよ。早くどこかに行って」

「はいはい」

 僕は柊さんを探すため、そして三宅さんに刺されないために足早にその場を立ち去った。




 僕は空き教室の扉を開けると、教室中央に設置されている大きな鏡を見て顔をしかめる。

『……ん? あれ? あなたあの時のお兄さんじゃないですか。こんにちは!』

「なんか……変な儀式みたいになってるな、お前。というか、この鏡の置き方……」

『変な儀式とは失礼な! まぁ、異様な雰囲気をかもし出しているのは否定しませんが……』

 鏡の中に映る少女が、少し困ったような表情で笑う。

 僕が今話しているこの少女の名前はナノハ。確か、約十年前に命を落とし、この鏡に魂をとらえられてしまっている、だとかなんとか、そんな感じの話だった気がする。

 そういえば、この件はワタリに伝えていなかった気がする。今度伝えておいた方が良いのだろうか……。そもそもこの場合、ナノハ自身と鏡、どっちが怪異ということになるのだろう……。

『あの、室戸さん』

「ん、あ、ごめん。何か言った?」

 僕は鏡の目の前に置かれているイスに腰を下ろす。

『いえ、今日は何か用事でもあるのかなぁ、と。あなたがここに来るのって初めてですよね?』

「あぁ、あまり来れなくて悪いな。あれからも結構色々あったからさ、忙しかったんだよ」

『怪異退治でもしてたんですか』

「そんな感じ」

『はぁ、あなたって苦労人なんですね。主人公体質なんですかね』

「さぁな。そういや、明日からは夏休みだけど、お前はずっとこの中にいるんだよな。ここに来る人がいなくなって退屈しちゃうんじゃないか?」

『そうですね~。他の鏡に移るとかできたらいいんですけど……あ、今の移るというのは移動するという意味で、映像の映や写真の写の方ではないですよ』

「うん、いや、わかってるけど。どうしたんだ、いきなり」

『わかりづらかったかなぁ、と思いまして』

「別にそんなことはなかったけどな」

『そうですか。まぁそれはいいとして……確かに夏休みの間は人はあまり来なくなるでしょうけど、私はこの鏡に住み続けて十年ですからね。多少は寂しい気持ちもありますが、もう慣れちゃいました』

 慣れたというナノハのその表情は、寂しいという気持ちを隠しきれてはいなかった。十年住んでいるとはいっても、精神面にはあまり変化がないのかもしれない。

「なんなら、僕が来てあげようか?」

『え……ほ、本当ですか……?』

「僕は部活とかには入ってないし、旅行に行くとかそういう予定も無いからさ。暇な時とかに遊びに来てやるよ。まぁ遊ぶとは言っても、おしゃべりくらいしかできないかもしれないけど」

『いえ、それでも嬉しいです! ありがとうございます、室戸さん!』

「何事もなければ、週に何回か……いやできるだけ毎日来てもいいし」

『あはは! 流石に毎日は良いですよ。その気持ちはとても嬉しいですが、あなたにもお勉強をする時間や、お友達と遊ぶ時間も必要でしょう?』

「あ、あぁ……」

 予定無いなぁ……今のところどっちも……。

『室戸さん? どうかしました?』

「え、いや、何でもないよ……はは」

『そうですか。──そういえば、結局聞いてませんでしたけど。今日は何の用があって来たんですか?』

「あぁ、ナノハに用事があったってわけじゃないんだ。どちらかというと、この場に用があったんだけど、検討外れだったみたいだ」

『この場に……と、言いますと?』

「柊さんに聞きたいことがあったんだよ。だから探していたんだけどさ」

『あぁあの白髪のお姉さん』

「そう。その白髪のかわいいお姉さん」

『……』

「どうかしたか?」

『いえ、続きをどうぞ……』

 なんだろう。一瞬不機嫌そうな表情をしたような……気のせいか。

「で、学校中探して見つからなくて、一度教室に戻ってみたけど見あたらなかったし。で、そういえばここはまだ見ていなかったな、と思って来てみたんだよ。結果ここもハズレだったわけだけど」

『なるほど。そうだったんですか。……避けられてるんじゃないですか?』

「……だとしたらかなりへこむ」

『まぁ、あの人に限ってそんなことはないと思いますが』

「……ナノハ何か知ってたりしないか? なんか特殊な力で居場所を突き止めたりとか」

『私はあくまでお悩みを聞いているだけであってそのような力は持ち合わせてないですよ』

「だよなぁ」

『あ、そういえば柊さん、最近少し様子がおかしかったような気がします』

「……」

 様子が、おかしかった……。

「具体的に言うと、どんな感じに……?」

『柊さんはとても優しい人で、結構頻繁に様子を見に来てくれるんですよ。ですが、一週間前くらいでしょうか。何かこう、話が所々噛み合わなくなるというか、スムーズにいかないということがありまして。でも、そんなこともあるよね、と思ってその時は特に気にしていなかったんです。ですが、昨日の昼休みに来てくれた柊さんは、その前よりもなんだか、話しづらそうというか調子が悪そうというか、そんな感じの印象を受けたんですよね。気のせいかもしれないし、単に具合が悪かったのかもしれないですけど』

「……」

 やっぱり、何かあったのだろうか……。もし何かあったのだとしたら……柊さんのことだから、誰にも迷惑をかけないようにしようとしているのかもしれない。思い過ごしであれば良いのだけれど……。ますます話を聞かなくちゃいけなくなったな。

『あの、室戸さん』

「ん?」

『もしも柊さんがどうにもならない危険な事態に(おちい)っていて、どうしようもなく困っていたとしたら、助けてあげてください。私の恩人である、あの人を』

「あぁ、その時はもちろん、出来る限りのことはするよ。見捨てられるわけがない」

『……』

「なんだ? そんな、驚いたような顔をして」

『いえ、そういうことを心から言える人を、初めて見た気がして』

「友達が困っていたら助けるよ。当たり前だろ」

『……その当たり前を実行するのが、結構難しいことなんですよ』

「そういうもんか?」

『そういうものです。──と、そろそろ時間ですね』

 ナノハがそう言った直後、昼休み終了五分前を告げるチャイムが学校内に鳴り響き始める。

「おっと、もうそんな時間か……結局見つけられなかったな」

『放課後になったらすぐに引き留めた方がいいんじゃないんですか?』

「あぁ、そうするつもりだよ」

『それじゃあ、さようなら室戸さん』

「また今度な、ナノハ」

 僕はそう言いながら立ち上がると、入り口の扉まで歩き、廊下に出て後ろ手に扉を閉めると、時間に遅れないように駆け足でその場から立ち去った。





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