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ミステリー・レコード弐  作者: 天海 扇
壹の弐 柊rabbit
5/22

No. 5


 七月二十三日。木曜日。


 僕と柊さんがグラウンドの噂の真相をつきとめた日の翌日の夜。僕は念のため、怪異の専門家、怪異殺しを名乗るワタリという男性に今回の噂の顛末(てんまつ)を報告していた。

『はは、運が良かったんだねぇ、四津木くん』

 電話越しに風の音が聞こえる中、話を終えた僕にワタリがかけた言葉はこうであった。

「運が良かった? 何がだよ」

『いやいや、何がって、危険な目にあわなくて良かったね、という意味だよ。言っておくけれどもね、怪異ってのは常人が意図的に触れるべきものじゃないんだよ。下手したら、命を落とす可能性だってあるんだから』

「……怪異に関わって問題を解決しようとするのは止めろってことか」

『そんなことは言わないよ。僕は君らの行動を制限する気はない。少なくとも、今のところはね。まぁ、忠告ってところかな。怪異に関わる関わらないは全て自己責任で行ってくれ。というかむしろ、僕は感謝しているくらいだね。君達が解決してくれたおかげで、僕が調査する必要が無くなって手間がはぶけたんだから』

「……そうか」

『とはいっても、君の学校にはそのうち様子見にいく必要がありそうだね。今回は何もなかったからって、これからも何も起こらない、と考えるのは考えが甘すぎる。得体の知れない相手だしね、君の話してくれた、その少年の怪異というのは』

「へぇ、お前にも知らない怪異ってあるんだな」

 僕の中では、ワタリは怪異に関して言えばなんでも知っている、というイメージがあったから少し以外だ。

『僕だってなんでも知っているわけじゃないよ。専門外だからね、そもそも』

「専門外?」

 専門の分野とかあるのか。あぁでも、僕の好きな小説の中の専門家にも専門分野を持っている人間はいたな。そういう感じなのだろうか。

『そもそもさ、前も言ったと思うんだけどこの町は異状なんだよ』

「悪いものが集まりすぎてる、んだったけか……?」

『そう。だからね、君達が出会った怪異は、新種だという可能性だってあるんだよ。ここ数年で生まれた、なんて奴だったら知りようがないからね、僕には』

 まぁ、そりゃそうだろうな……。

『ともかく、報告してくれたのはありがたいよ。──それじゃあ、通話を切るよ』

「……あ、ちょっと待ってくれワタリ!」

『ん? なんだい。何か話忘れたことでもあったのかい』

 僕は気になっていたことをワタリに問いかける。具体的に内容を言うなら、昨日山田から聞いた柊さんの噂についてだ。気温が低くなる、忘れっぽくなる、そういった状況を引き起こす怪異に心当たりがないかを、僕はワタリに聞いてみた。

 だが僕の欲しかった答えを得ることは、残念ながらできなかった。

「それだけじゃわからない……?」

『あぁ、わからない。君がどう考えているのかは知らないけどさ、怪異ってかなりの数がいるんだぜ。記憶に関係する怪異も、温度に関係する怪異も、結構な数がいるんだからさ』

「……そうか」

『そんな気を落とすなよ四津木くん。どうにもならないような状況なんだとしたら、手くらいは貸してあげるからさ。あ、連絡は早めにしてくれよ。いつでもすぐに駆けつける、なんてことはできないんだからさ。僕だって暇なわけじゃないんだ』

「そうだ、さっきから風の音が聞こえるから気になってたんだけど、今お前はどこにいるんだ?」

『ん? 電波塔の上だよ。町を見下ろしてる』

「はぁっ!?」

 電波塔の上にいるって……。

「な、なんでそんなとこにいるんだよ」

『お仕事さ。言ったろ、僕も暇ではないんだよ。まぁ、明日一日くらいは空けておくから、経過報告でも結果報告でも、緊急報告でもなんでもしてきていいから。それじゃあ、四津木くん、運の良い夢を』

 ブツッという音と共に、ワタリとの通話は終了した。




     *




 七月二十四日。金曜日。


 夏休み前日、終業式のある日。

 とはいっても、午前は普通に授業が行われる。

「……」

 教室にやって来た僕は教室の扉を開けて柊さんの存在の有無を確認する。どうやら、まだ彼女は登校してきていないようだ。

「まぁ、昼休みにでも話せばいいかな……」

 僕は窓際の一番後ろにある僕の席へとまっすぐに歩いていく。

「本人は大丈夫って言っていたけど……ああいう大丈夫って嘘だったりするからなぁ」

「なんだ、何か悩み事か」

 背後からガタンという音と聞き慣れた声が聞こえたために僕は後ろを振り返る。

「……? どうした四津木。そんな顔をして」

「いやちょっと待て。田中、お前今どこから出てきた」

「見てただろ」

「見てたから聞いてるんだ」

「何を言ってるんだか……掃除用具入れのロッカーから出てきただけだろう」

 僕は一度息を吐き、そして思いきり吸いなおす。

「なんっでだよっ!」

「なんだいきなり、大声なんかだして。暑さで頭がやられておかしくなったか」

「ロッカーから出てくる野郎に頭がおかしいとか言われたくない……!」

「なんだ~? 田中も四津木も朝から元気だな」

 いつのまにかやって来ていた山田が現れた。

「貴様は年がら年中元気だろう」

「おう! 俺はいつでも元気だぞ!」

 田中……今のは言い方的に皮肉だなきっと……。

「そうだ、聞いてくれよ二人とも!」

「俺はいい」

「いいから聞いてくれよ~!」

 こっから先、約五分間、田中の機嫌を損ねた山田がボコられるという、いつも通りの光景が繰り広げられたため山田の話が再開したのは十分後のことであった。


「……で? また噂でも仕入れたのか?」

「そうそう、聞いてくれよ。今回は猫に関する噂だぜ。お前らは知ってるか? 人語を話す黒い猫の噂を!」

「人語を話す……って、日本語を喋る猫がいるって噂なのか?」

 ……聞いたことないな……。マグロうまいって喋る、みたいな、言われて意識したらそう聞こえるかもしれないレベルの話じゃないよな……。

「あぁ~四津木が言いたいことはわかるけど、そういうんじゃないから安心してくれよ」

「はぁ」

「それでな、なんでもその黒猫に出会ってしまった人間は近いうちに死んでしまうらしいんだよ」

「それはまた、ずいぶんと突飛(とっぴ)な話だな……」

 出会ったら死ぬとか……理不尽きわまりないしたちが悪いな……。いや、でも怪異っていったら割りと理不尽なものか……。人間の都合に合わせてくれる怪異なんて早々いるものでもないだろうし……。

「あ、あと猫っていったらもうひとつこんな噂があるぞ! 猫が集まるゴミ屋敷、というかゴミでできた建造物がこの町のどこかにあるらしいんだよ!」

「……それこそ聞いたことないな……何、そんなのあるのこの町?」

「……俺は知らんぞ」

 ……待てよ。なんか最近、近いものをどこかで見たような……どこで見たんだっけ……。

「でもさ、人語を話す猫とかよりも、全然ありそうな話じゃね? 最近この町に野良猫が増えた気がするし」

「野良猫なんて前から数匹うろついてるだろう」

「数匹ってレベルじゃないんだよマジで。今朝なんて俺の目の前を黒猫が三回も横切ったぞ」

「そのうち死ぬんだな、きっと」

「ひでぇな田中。俺は死なねぇよ」

「にしてもさ、山田から話を聞く時に毎回思うんだけど、お前いつもどこから噂を集めてるんだ? まさか、クラスの皆に聞いて回ってるとか?」

「ん、あ~……」

 山田は僕に背中を向けて少しうろうろすると、急に振り返り僕に指を突きつけてきた。

「風の噂だぜ!」

「うざい」

 そして山田の後ろに回り込んでいた田中に殴られていた。





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