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ミステリー・レコード弐  作者: 天海 扇
壹の壱 いたずらground
4/22

No. 4

 時は進み現在放課後。

 柊さんと僕は、音楽室や化学室などの特別教室がある二線校舎に来ていた。

 何故なのか、というと、それは二線校舎の一面がグラウンド側に面している。つまり、二線校舎にはグラウンドを見ることができる場所が多数存在しているからである。

「グラウンド自体に問題があるんじゃなくて、グラウンドを見た場所に問題がある、か……なかなか鋭いねぇ室戸くん! 君は名探偵かな?」

「別に大したことじゃないよ。まだそうとは決まってないわけだし」

「いやいや、室戸くんはすごいよ。二週間くらい前に教室に閉じ込められちゃった時だって、寝て起きたらパパッと解決しちゃうんだもん」

「あぁ、あれか……」

 どちらかというと、というか本当のことを言うと、その教室の問題を解決したのは僕ではない。僕は、自分の夢の中に現れる、同い年くらいの彼女の出した答えを実践したにすぎないのだ。

 まぁそれを説明するとめんどくさいことになりそうなので話さないが。

「何よりもさ、寝て起きたら問題解決ってのが名探偵っぽいよね! 君の苗字は江戸川だったんだね!」

「いや、柊さん違うから」

「はっ……そうか。そうだね違うよね……」

 不覚、といった感じの表情をする柊さん。

「実際に寝るのは毛利さんだもんね」

「違うそうじゃない」

「え? いや、でも、寝るのは……」

「僕が言いたかったのは自分の苗字が江戸川じゃなくて室戸だということであって、寝ている人物の間違いを指摘した訳じゃない」

「でもさ、室戸よりも毛利の方がかっこよくない? 武将みたいでさ!」

「全国の室戸さんに失礼──いや、苗字の話はもういいからさ、調査しようよ……僕は三階と四階見てくるからさ」

「あ、うん。それじゃあ、何かあったら連絡するね。百当番に」

「イタ電は良くな~い」

「あはは、それじゃあ後でね~! え~と……室戸くん!」

 ん~、名前呼ぶ前の間が気になる。

「あ、そうだ柊さん」

「ん?」

「最近、さ……なんか困ってたりしない? 悩みとかさ」

「え……? なんのことかね」

「いや、ちょっと体調が悪いとか、そういうのでも良いんだけどさ」

「全然大丈夫だよ? 私は元気であります隊長!」

 柊さんはそう言うと敬礼をしだし、それを見ていた僕は笑みがこぼれる。

「そっか、大丈夫なら良いんだ。じゃあ、後で」

「後で~!」

 僕は腕を(さす)りながら、一階から三階目指して階段を登り始める。

「さぁて、見る場所に問題があるとは言ったものの……簡単にわかるようなもんなのかね~……」

 僕はため息を一つつくと、気合いを入れ直して階段を登り続けた。




 簡単に見つかった。

 三階の一番奥の教室である化学室の窓。そこに答えがあった。

「なんだこれ……歪んでる……のか?」

 僕は窓の一つを開けて、グラウンドの見え方の違い、大きさの違いを窓越しの時とそうじゃない時で何度か比べてみていた。

 すると、なんというか説明しにくいのだが、窓越しで見た時には、何かこう……違和感のようなものを感じることに気がついた。

「……覗く度に、微妙にサイズが変わって見えてる……のかな。どういう仕組みなんだこれ……」

 僕は考えた。一秒くらい。

「まぁいいか。柊さんを呼んでこよう」

 そして僕は、この件について深く考えることをやめた。




 柊さんを化学室に呼んできた僕は、窓に問題があるんだろう、ということを彼女に伝えた。

「……」

「ん……? どうかした?」

「いや……不思議だなぁ、と思って」

「不思議……?」

「どうして、この教室の窓から見たときだけ、広さが違って見えるのかな、と思ってさ」

 どうして、と言われても。考えられる理由といえば……。

「あれじゃないか? 眼鏡……じゃないな。そうだ、望遠鏡のレンズ。あれと同じような、特殊な窓ガラスが窓にはめられているってことなんじゃないか?」

「う~ん……でも、何でそんなことをする必要があるのかな? 別に、こんな変わったガラスじゃなくて、普通の窓ガラスを使えば良い話じゃない?」

 ……なるほど、言われてみれば確かに。

「それにこの窓がレンズだとしても、こんな大きなレンズなんてそもそも誰も持ってはいないんじゃないかな?」

「……柊さん。それってそんなに重要なことなのかな。僕は正直言って、そこは深く気にしなくてもいいんじゃないかな、と思うんだけど」

「そうもいかないよ。もしもこれが怪異の仕業なんだとしたら、周囲にどんな影響を及ぼしているのか調べなきゃいけなくなるわけだし」

 そういえば彼女は言っていた。怪異によって引き起こされる現象を解決する、いわばヒーローのような存在である、と。

 流石にそのようなことを自発的に行うだけあって正義感というものはなかなかに強いらしい。誰かに評価されるわけでもないというのに、ヒーローといっても目立つことのない、裏方のような存在であるというのに、本当に大したものだと思う。そういう周囲への無償の優しさが、彼女の最大の魅力なのかもしれない。

「あ~……にしても、怪異の仕業って言うにはちょっと厳しいんじゃないかな、今回は。こんな、子供のいたずらみたいなこと、それこそする必要が無いだろうし……そうだ、先生の誰かが割ってしまって慌てて代用品をはめてもらったけど、一ヶ所だけ特殊な窓ガラスだとバレちゃうから全部の窓ガラスを取り替えたとか」

 自分でもそりゃないだろと思いながら、てきとうな答えを述べてみる。

「流石にそれはないんじゃ……いたずら……? ……! そうだ、そういうことか! な~んだ、簡単じゃん!」

「え、ちょ、えっ?」

 突然解決した……!?

「さて、全て解決したし帰りましょうか!」

「ちょっと待って柊さん!」

 何やら突然自己完結してしまったらしい彼女を引き止めて、どういうことなのかの説明をお願いした。

「室戸くんはさ、さっきも話したけど、二週間くらい前のことは覚えてるよね? あの、私達が数字だらけの教室に閉じ込められた」

「うん。覚えてるよ」

 そのことはよく覚えている。その時の光景は僕の脳裏に焼き付いてしまっている。簡単に忘れることなんてできない。できやしない。なぜならあの日から、その時から僕の人生は怪異に満ちたものへと変貌してしまったのだと、そう言ってしまっても過言はない、それほどの出来事だったのだから。

「じゃあさ、教室から出る時、つまり怪異を解決した時に子供の笑い声が聞こえてきたのも覚えてるよね?」

「……え、じゃあ、まさか……?」

「そう、そのまさか。この窓はあの子が仕組んだいたずらだったんだよ。──ねえ、そうだよね?」

 柊さんは天井の方を見ると、問いかけるように、答えを求めるようにそう声をかけた。

 すると突然、どこからともなくクスクスという笑い声が聞こえ始め、次第にその声は大きくなっていき、やがてそれは、とても満足気な大きな笑い声になった。

「正解だったみたいだね。──あ、室戸くん! 窓ガラスが普通のに戻ってるよ!」

 唖然(あぜん)としていた僕は彼女が指さした方に視線を向ける。すると彼女の言う通り、窓は普通の窓ガラスへと変わっていて、いつのまにか子供の笑い声もおさまっていた。

 なんとも腑に落ちない結果であるが、どうやら今回の件はこれで解決のようだ。

「よし、窓も戻ったし、それじゃあ今度こそ帰りましょうか!」

「あっちょっ……」

 僕は柊さんに、今の子供の笑い声をあげていた怪異についての話を聞こうとして、彼女を呼び止めようと手を伸ばしかけたがすぐにその手を引っ込める。

「……まぁ、いっか」

 怪異に触れないですむならそれにこしたことはない。と、そう思った僕は、柊さんに問うのを止め、外に出ていく彼女を追って教室をあとにした。



 □■ 後日談 ■□



 翌日僕は、移動教室によって例の怪異に憑かれていた窓がある化学室へと移動した。

 そして僕はなんとなく、ただなんとなく窓を、というよりも外の風景を見つめていた。だがそこで僕はあることに気づき、その授業が終わった時に教科担任の先生の元へ行き、こう(たず)ねた。

「窓ガラス、一枚か二枚、割ったりしました?」

 窓ガラスの汚れ具合の違いが気になり、僕はそう問いかけてみたのだ。確信があったわけではないが、そうなんじゃないかと思ったから、問いかけてみた。

 時は過ぎて放課後。結果、僕の手の中には今、三枚の野口英世の姿があった。

「まさかのまさかだね……」

 僕と柊さんはお互い苦笑しあう。

「ま、せっかく臨時収入を得たわけだしさ、何か食べにでも行きましょうか」

「いいのかな……」

「僕が先生に質問したら優しい先生がおこづかいをくれた。だからなんの問題もないよ」

 僕の返答に柊さんは笑う。


 こうして、広さが変わるグラウンドという、不思議な噂に関する話は、幕を閉じたのであった。





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