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ミステリー・レコード弐  作者: 天海 扇
壹の壱 いたずらground
3/22

No. 3

 授業は(とどこお)りなく進み、昼休み。

 滞りなく、とはいえ、特筆すべきことがないだけで何も起きなかったわけではない。だがしかし、今はそんなことはどうでもいいことであって、授業中の珍回答などに焦点をあてて話す必要なんて無いわけで。白状してしまうなら、眠たくてうとうとしてしまっていたから、内容をよく覚えていないというわけだったりするのだが……。



 閑話休題。



 昼休みになってすぐに僕は山田の元へ行こうとし、

「四津木~! こんな話は知ってるか!」

 たら向こうからやって来た。何やら話したくてしょうがない様子。

「何だ? また噂話でも仕入れたのか?」

「ただの噂じゃないぜ~? 怪しい噂さ!」

 怪しい噂……怪談、怪異話……。

 二週間ほど前、誘拐され殺されそうになるという危険な目にあったというのに……全くこりていないようだ。

「あんまり深入りしすぎると、また痛い目見るぞ」

「大丈夫大丈夫。もう怪談を試したりとかはしてないから。いろんな噂集めるだけなら変なのに襲われたりしないだろ!」

 のんきに笑う山田を見て僕はため息をつく。

「まぁまぁ、聞いてくれよ。なんでも、とあるアパートの一室で幽霊が出るらしいっていう噂があってな」

「……違った……」

「ん? 何か言ったか?」

「あ、いや、何でもない。続けて」

 まぁ、焦る必要もないか。全て聞き終わってから自分から話題を振ってみれば答えてくれるかもしれない。

 それに、この話だって何かの怪異が関係している可能性は無いわけじゃないし。聞いておいて損はしないだろう。

「ん~……。それでな、その噂が流れ始めたのは、男一人しか住んでないはずの部屋から女の子の声が聞こえてくるかららしくてさ……」

「友達とか親戚とか、そんなんじゃないのかそれ?」

「そう思ってある日、大家さんが用事ついでに部屋の中を確認してみたらしいんだよ。でも玄関には男の靴しかない。入る直前までは元気な声が聞こえてたから大家さんは誘拐かもしれないと思って、何かしらの理由をつけて部屋の中を確認してみたんだって。だけどそこには……」

「誰もいなかった……だから幽霊……か」

 ……周囲に被害が出てるような感じじゃないし……柊さんやアイツに伝えるほどのものじゃないか。

「どうだ? なかなか面白いだろ噂って!」

「山田は本当に好きだなぁ、噂」

「ま、噂だからって何でも好きなわけじゃないけどな」

「そうなのか?」

「あぁ、人の悪い噂とか、そういうのは好きじゃない」

「あぁ」

 なるほど。悪口、陰口、悪態。そういった、他人に関する悪い噂は、根拠があるなし関係なく好きじゃない、と。

「お前って良い奴だよな」

「そうか? 普通じゃね?」

「普通でいることって難しいだろ。──やっぱり、この学校でもいじめみたいなことってあるのか?」

「ん~……聞いた限りではそこまでのは無いけど、でもそういうのってバレないようにやるんじゃないか?」

「あ~……そりゃそうだ」

 まぁ大人数で生活している以上、大小の差はあれど確執なんてものは溢れているものだろう。生きて意思をもって行動している以上、人間同士の衝突は起きてしまうものであって、完全に回避するなんてことはきっとできない、不可能なのだ。そもそも、人間同士の衝突が完全に回避できるんだとしたら戦争や紛争はとっくに終わっている。

「あ、そうだ」

 山田はそう呟くと周囲をキョロキョロと確認し始める。

「どうした?」

「いや、柊さんはいないよなぁ、と」

「いないみたいだな。……まさか、柊さんが何か」

「いや、いやいや違うよ。悪口とかではない、けど……良い噂ではないからさ」

「どんな話なんだ」

「ちょっと落ち着けって。ほら座って」

 山田に言われ、僕が無意識のうちに身を乗り出していたということに気づかされる。

 僕は椅子から浮いた腰を下ろす。

「意味がわからない噂なんだけど……なんだかさ、柊さんは幽霊なんじゃないかって、そんな噂が流れてるみたいなんだよ」

「……は?」

 予想外だった。

「なんだそれ」

「な、意味わかんないだろ?」

「その噂って根拠も何もないだろ?」

「いや、聞いた話では、最近柊さんの周囲では温度が少し低くなる、とか。そんなことが言われてて、実際に彼女と話したりした人は皆そうだったって言ってるみたいでさ」

「温度が……低く……?」

 そうだっただろうか……? 昨日僕が彼女と話をした時には特にそんなことはなかった気がするが……。

「あと、もう少ししたらいなくなっちゃうんじゃないかって噂もある」

「いなくなるって……何で」

「なんか、最近柊さん物忘れとか多くて苦しそうに見えるから、現世に残っていられる期間がもう無いんだ、とか。あとは普通に、何かの病気にかかってるけど、皆を心配させたくなくていつも通りの自分を演じてる、とか。そんな感じ。まぁ、確固(かっこ)たる証拠があるわけじゃないんだけどね。単なる噂であって、それ以上でもそれ以下でもないわけだけど」

「……」

 物忘れ……苦しそう……。その二点は僕にも心当たりがあった。昨日話した時には大丈夫だからと言っていた柊さんであったが、やはり何かあるのだろうか。

「……放課後に聞いてみないとな……」

「ん?」

「いや……そうだ、山田に聞きたいことがあるんだけど」

「おぉ、珍しいな。四津木から何かを聞いてくるのって」

「そういうこともあるさ」

 僕は聞きたかったこと、グラウンドの噂について知っているかを山田に問いかけてみた。

「あぁ、知ってるよ。あれだろ? グラウンドの広さが変わるって。そんなわけないってわかってても面白いよな、こういうバカみたいな噂! でもさ、皆に話聞いたら本当にバラバラなんだよな。不思議だな!」

「なんかこう、共通点みたいなのって無いのか?」

「共通点?」

「そう。例えば……ほら、こう、何人かの答えが同じだった、とか」

「あのさ、流石に俺も皆の答え覚えてるわけじゃねぇよ? そもそも皆正確な数字で答えてるわけじゃないし……」

「何でも良いからさ、ちょっと思い出してみてくれよ」

「ん~……どうだろ……」

 山田は腕を組むと目を閉じてう~ん、とうなり始める。

「……あ~、あれだな。生徒会の奴等は皆横幅がテント何個分あるかで答えてたかなぁ。あ、そうだそうだ。何人かは答えが一致してたな! 他の奴等はバラバラだったけど!」

「……多分、一致してる人達の方が正解だよな」

「あぁ、確かそう言ってたかな。間違えた側は本当に不思議そうにしてたぜ?」

「……」

 一致していた人達とバラバラだった人達……正解した人達と不正解だった人達との違いが鍵……って感じか……。

「なぁ、何で四津木はそんなにガチになってるわけ? お前いつもはこんなに食いついて来ないだろ?」

「あ、いや、それは……」

 怪異が絡んでるか絡んでないかを調べてる、なんて言っても仕方ないし……なんて言うべきか……。

「あ、もしかしてお前もこういう話が好きになったのか?」

「あ~……」

 それで良いか。

「そう、そうだよ。そんな感じ」

「そっかぁ! いやぁ、仲間が増えてくれて嬉しいぜ!」

 ……良かった、のかな……? なんか後々めんどくさくなりそうな気がしてきた。

「あんた達何の話してるの?」

 突然後ろから声をかけられたので僕は声の主の方に振り向き顔を確認する。

「あ、天海(あまみ)

 僕の視線の先にいたのは、片手を腰にあてて立っている、ゆるふわな感じの頭髪をした茶髪ショートヘアーの女子だった。

 天海。天海(あまみ)優奈(ゆうな)。同じクラスの生徒で、転校当初の僕に四番目に話しかけてくれた女の子。

「今四津木とグラウンドの噂について話してたんだよ」

「グラウンドの噂? あぁ、あの広さが変わるってやつ?」

 本当に広まってるんだなこの噂……昨日柊さんから聞くまで全然知らなかったのに……。

 天海はすたすたと歩いてくると、僕の隣の机に座り始める。

「山田は本当に噂話好きだね~」

「天海もだろ?」

「あんたほどじゃないわよ」

「──そうだ、天海に聞きたいんだけど、天海はグラウンドの広さどれくらいかは知ってるか?」

「ん~……数字でどれくらい、とかいう風には答えられる気がしないかな……」

 ……そうだ。

「テント換算(かんさん)で考えてくれないか? ほら、学校祭の時に使うやつ。横幅で良いからさ」

「あ、それならわかりやすいかも! え~っと~……」

 天海は足をぶらぶらさせながら考える素振りを見せ、しばらくすると自分でも納得いっていないような感じの声で答える。

「十個分くらい……かなぁ……?」

「山田、答えは?」

「ん? あぁ、正解はな、じ」

「十六個分だ」

「えっ……」

 山田の声を別の男子の声が(さえぎ)る。

 その声はとても聞き覚えのある、いつも山田と一緒にいる男、同じクラスの田中の声だった。

 が、周りを見渡してもその声の主の姿が見当たらない。

「田中? どこだ?」

「ここだ」

「うおわっ!?」

 山田が飛び上がり、僕と天海が目を見開く。何故なら彼が山田の背後から突然現れたからだ。

「田中……お前いつからそこに……」

「今さっき来たところだ。ところで、何の話をしていたんだ?」

「あ、グラウンドの」

「あぁ、あのくだらない噂か」

 田中は今度は僕の声を遮る。

「それでグラウンドの広さをテント換算で考えていたわけか。なるほどな」

「ちょっと田中、あんたさっき十六個分だって言ったよね? 流石にそんなに広くないでしょ」

「いや、俺の答えは正確だ」

「そうかな~」

「……山田、それで、どっちが正解な」

「俺だ」

 田中が遮る……。何回もやられると少しイラッと来るな……。

「山田、答えは?」

「あ、あぁ答えな。答えは田中の言う通り十六個分だよ」

「ほらな」

「うっそぉ! そんなに広いの!?」

 信じられない、といった表情をしている天海を見て僕はある疑問を抱き、それについて彼女に問いかけることにした。

「天海ずいぶんと驚いてるけどさ、さっき自分でも自信無さげじゃなかった?」

「あ、いや、そうだけどさ。まさかそんなに広いとは思わなかったからさ……」

「にしても六個差か~、間違えてた生徒会の奴等も確かそれくらいの誤差があったかな~」

「全く、どう見ればそんなに狭く見えるんだ」

「……?」

 どう見れば……? ……! もしかして……!

 答えに繋がりそうな(ひらめ)きを感じ、僕は天海に問いかける。

「なぁ、天海。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」





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