No. 1
グラウンド。ground。
この単語は英語で『地面』や『分野』などを表す言葉である。
今回僕が語るのは、グラウンドの話。分野としてのグラウンドではなく地面としてのグラウンドの話。学校の敷地に存在するグラウンドの話で、僕の学校に存在したグラウンドの噂。
だがしかし、語るとは言っても、特に話さなければならないほどの事件などがあったわけではないし、言ってしまえば大したことではない、どうということのない物語ではある。
──グラウンドと言えば、様々な思い出があったりなかったり、恥ずかしい記憶や楽しくて嬉しい記憶があったりなかったり、と、まぁ人によって色々あると思う。
時には真夏のくそ暑い中、体育によって百メートルを走ったり。野球やサッカーなどの球技を行ったり、運動会や体育祭で生徒同士で競いあったり等々。体を動かすこと、つまり運動が苦手、もしくは運動が嫌いだという人間にとってはあまり良い記憶は無いかもしれないが、下手したら全くと言って良いほど記憶に無いかもしれないが、僕にとっては中々思い出深い場所である。……確かそのはず……きっと、そうである。
とはいえ僕は、室戸四津木という人間は、特別身体能力の面で優れているというわけではない。覚えている限りで言うならば百メートルのタイムは十六秒ほどであるし、球技をやっても活躍らしい活躍はしないような、そんなよくいる高校生である。何でもそつなくこなせると言えば聞こえは良いかもしれないが、悪く言ってしまえば器用貧乏。君の特徴は何か、と問われれば間違いなく運動方面でないのは確かだ。
──いったい僕は何の話をしていたのだったか……。そうだ、グラウンドの話である。僕が体験し経験した、なんてことのない大したことのない怪異譚であって物語。
そして、僕の大切な友達である、白い長髪で水色の瞳をした彼女、柊千尋を蝕んでいたものに気づけなかった物語。
──とまぁ、そんなことはさておいて、そろそろ物語を始めよう。無駄な話を無駄に長々と話していた気もするが、そんなことは気にせずに始めてしまおう。
とある日。人間をだましていた花蟷螂という怪異や、ある人物が書いて生み出してしまった怪異の本の事件を解決して数日が経ったある日。学校の授業を終えた放課後、たまたま玄関で鉢合わせた柊さんとの、こんな会話から僕の物語は始まった。
「ねぇ室戸くん。君はあの噂を聞いたことがある?」
「ん、何、噂? 何の?」
「グラウンドの噂だよ。室戸くんは聞いたことはある? ──この学校のグラウンドの広さが変わるって、そんな噂を……」