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はみだしてあぶない刑事  作者: 助三郎
はみだしてあぶない刑事
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秘密の花園に散った淡い恋心。時が過ぎてもなお狂い咲いて 5

 幸恵は翌日、『特別捜査室』のメンバーの目の前で、昨晩の青年達と分け合ったゼリーが入っている袋を広げた。警察官とはいえ女子の集まりだ。味や色の違うゼリーの寄せ集めに、全員が興味を持って袋の中を覗きこんではどうでも良い雑談に場を咲かせていた。


「こんなにたくさんどうしたのよ」

「昨晩、何だか急に食べたくなっちゃって。まとめて買っちゃいました」

ゼリーの味を真剣に選びながら、麻優美が幸恵に問いかけてきた。プライベートの詳しい話はする必要がないだろうと判断して、それを得るにあたった状況の説明は飛ばして簡潔に応える。


 そんな幸恵の横で由美が、何かを思いついたかのように天井を指差すと、その指を真っ直ぐに幸恵の鼻の頭に向けた。


「もしやあれですな。帰りに寄ったスーパーでゼリーを売っていた年下のイケメン店員さんがあまりにも可愛かったから、大人の特権である『まとめ買い』をして「大人の女性ってかっこいい」ってところを見せ付ける為に買ったとか」

「なにそれ。そこでまとめ買いしたって、彼の中の印象はただの気前の良いお客さんってだけで、その先に繋がらないじゃない」

まるで2時間サスペンスドラマに出てくる刑事のような仕草と由美の突拍子無い閃きに、光希が早速開けたゼリーを頬張った口で器用にに突っ込みを入れる。周りは笑いに包まれていた。


 幸恵も一緒に笑っているつもりだったが、顔はかなり強張ってしまった。由美の閃きは、当たらずにして遠からずといったところだからだ。


 昨晩の流れで子供達と一緒に食卓を囲んでしまったが、完全なる赤の他人である。児童養護施設で素立つ彼らの心の傷を癒す事は出来ないし、彼らの過去を深く追求できる立場でもない。それでもあの屈託のない子供の笑顔を見ていたら、その輪に入りたくなってしまったのだった。何事にも顔を突っ込んでしまうお節介焼きの性格はやはり幸恵の悪い癖だ。自覚をしていても治る事のない癖につい溜息を吐いてしまう。


 突然、刑事部の天井から警報が鳴った。管轄内で変死体が発見されたとの通報があったようだ。曇りガラスの先にある捜査第一課の面々が上着を引っ掛けて現場へと出ていく姿が見える。


「私達もでないと」

幸恵は急いで自分のディスクから上着と鞄を取りに行こうとするが、後ろから制止の声がかかった。

「私達は出なくて良いのよ。他の部署からの協力要請がでないと動いてはいけないの」

「しかし、同じ刑事部の捜査人員ではないのですか」

「正式には『預かり』の『特別捜査室』よ」

室長である麻優美がそう言うのであれば、逆らう事は出来ずしぶしぶと掴んだ上着を手放す。


 仕事に誇りを持ち、自分達の手柄を重要視する刑事の中で、「お手伝い」のような不透明な存在の『特別捜査室』は果たして必要とされるのだろうか。自分も刑事の1人になったのに、目の前で戦力外通告のような扱いをされて悔しくないのだろうか。幸恵の体の横に下げた拳が震えていた。


「さてと、私はそろそろトイレにでも行こうかなー」

そんな怒りに震える幸恵の隣で、光希は何食わぬ顔して椅子から立ち上がると、上着のポケットに手を入れたまま部屋を出ようとする。

「鷹岡。また貴方は首を突っ込みに行くのね。全く反省していないのだから」

そう溜息交じりに吐き出すと、麻優美は頭を抱えた。


 彼女がトイレに行くだけなのに、何をそんなに悩む必要があるのかと2人の様子を見ながら首を傾げる。業務中も出歩いてはいけない規則なんて、学生でもあるまいし、そこまで拘束してしまっては膀胱炎になりかねない。


「携帯持ったの。ちゃんと報告するのよ」

家を出ていく子供に「ハンカチ持ったの」と聞く母親のように友子は光希に言う。


トイレに携帯を持って行く人は多いでしょうけれど、わざわざ人に言われてまで持って行き報告する必要があるのかしら。しかも何の報告を。さらに幸恵は首を捻る。


「室長、大変です。状況が分からなく過ぎて大端さんが険しい顔をして首が90度位にまで傾いています」

「ごめんね、大端さん。一先ず鷹岡と一緒に行ってくれないかしら。あの子1人だとまた荒らしてしまうから」

「え、トイレに1人で行けないんですか」


その言葉に幸恵を除く全員が沈黙して動きを止めた。


 ついに堪え切れなくなって光希と由美がお腹を抱えて笑い始めた。

「ごめんね。ちゃんと説明ができないから、鷹岡と一緒に行きながら色々と見て来てもらっても良いかしら」

麻優美は申し訳なさそうにそう言うと、幸恵に向かって謝る様に両手を顔の前で合わせた。


「行くよサッチー。では、遠くのトイレまでお花を摘みに行ってきますので、戻りは遅くなりますー」

光希は高らかにそう宣言すると、困惑したままの幸恵の手を引きながら捜査室を後にした。


一体どこのトイレまで連れて行かれるというのか。幸恵は不安で仕方がなかった。

2019/1 改稿済

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