第一話 第三部 待ち合わせ場所から
「お、来た来た。」
俺は待ち合わせ場所で待っていると母親のシナナに乗せてもらった浮遊車がやってきた。
「おはようクレイナ。」
「おはようございます。」
クレイナは浮遊車から降ろしてもらって歩き始めた。歩き方はぎこちなくとも、前に進もうと意識していた。
「娘をよろしくね。」
「はい、シナナさん。」
俺はシナナさんに挨拶をした。確かに今日はほぼずっと一緒にクレイナとナーニャと一緒にいなければならない。俺がしっかりと守ってやらなければいけない。
「あとはナーニャが来るのを待つだけか。」
「そうね。」
「おまたせー。」
そんな話をしたときにちょうど良くナーニャがやってきた。ナーニャはふんわりとした服を着てやってきた。しかも何やら新調してきたみたいだった。
「これ、お母さんが縫ってくれたんだ。似合うかな?」
「ああ、とっても似合うと思う。クレイナもそう思うよな。」
「すごくいいと思う。特に襟の部分が。」
ナーニャは嬉しそうに笑っていた。ナーニャと食事に行くのは良くあるが、出かけるのは久々かもしれない。しかもナーニャのことだからいざというときは俺よりナーニャの方が守ってくれそうな気がするな。
「それじゃあ会場に行きますか。会場までの電車もいつもより混んでいると思うし、会場もすごく人がいるから迷わないように気を付けてね。」
「了解。」
「わかった。」
俺たちはすぐに歩き始めて電車へと向かう。駅のホームにつくと電車がやってきた。俺たちはゆっくりと電車に乗り、手すりにつかまった。一席あいていたのでそこにはクレイナを座らせてあげた。クレイナは黙って俺に手を伸ばした。
「荷物。あるなら持つ。」
「おお、ありがとう。そんな重くないから大丈夫だよ。」
俺はクレイナに荷物を渡した。そして電車が動きだす。今では使われなくなったレールがここ最近になってキシキシといった音が聞こえるようになった。幼稚園の時に感じていた、あの独特な感覚が今では全くなくなっていた。その分、スムーズな動きで電車に乗っていられる。乗り物酔いをする人が減ったのが良いことだ。ナーニャが実際そうだったからな。俺は外を眺めながらイベントを楽しみにしていた。
「ナーニャ、行きたい所とか下調べしたか?」
「うん、一応このメモにまとめておいたから。あとでそのブース行ってもいいかな?」
「ああ、もちろんだよ。クレイナは?」
「ここ。」
クレイナは俺の持っている地図に指差した。俺はうんとうなづいてその場所にチェックマークを入れた。クレイナは…楽しんでくれるのだろうか。でも思ったことはちゃんと口に出してくれる。声の抑揚は無く表情も無表情のままだが、その言葉通りの表現だというのは知っている。何か今回のイベントがきっかけになってくれると嬉しいが。
「あ、えっとね。私が行きたい所は…。」
ナーニャは俺の地図に指をさす。二人のために何をしてあげられるか。笑顔のナーニャと無表情のクレイナを見て思った。