第一話 第一部 クレイナとナーニャ、三人で。
「クレイナ、帰るぞ。」
「はい。」
俺は机の上にあるクレイナのカバンを持つ。クレイナは表情一つ変えることなく立ち上がり、歩き始める。階段を下っていくと同時にクレイナを見る。慣れてきたのだろうか、義足でも一人でスムーズに降りれるようになってくれた。俺はほっとため息をついて歩き始める。
「ツキカゼ、一緒に帰ろう。」
「ナーニャか。今日用事は無いのか?」
「うん、今日は…特に何もないから。」
ナーニャはクレイナの隣につきながら歩き始めた。校門を出ると丁度良くバス停にバスが止まっていた。
「タイミング良いね。」
「でもいま止まったばかりだからすぐ出るはずだぞ。」
ナーニャは走ってバスへと向かっていく。俺はクレイナの様子を見ながら早歩きで進む。ぎこちない進み方だが、クレイナも早歩きが出来るようになっていた。俺は前を向くとナーニャが手を振っていた。どうやら俺たちのために待ってくれているみたいだった。
「ありがとうございます!」
「いってことよ。それじゃあ出るぞ。」
俺とクレイナがバスに乗るとすぐに発進した。体勢を崩しそうになったが、すぐに手すりにつかまった。クレイナは壁があったため、そこで体を支えることができたようだ。宙に浮いて進んでいるため、立ちながらでもゆったりできる。クレイナにとってみればかなり楽な方だ。
「そうだクレイナ、ナーニャ。明日俺、人類電子機器エキスポに参加するんだけど…一緒にいかないか?」
「あのイベント、いいけどチケット代いくら。」
「いや、俺が三つ手に入ったから誘おうかなって思っていて。」
「そうなんだ。なら私はいくよ。」
クレイナは淡々と答えた。ナーニャは目をキラキラさせて俺の顔をまじまじと見る。これは聞かなくても大丈夫そうだな。
「ツキカゼは電子機器に興味あるの?」
「まあ、その中でも物理を使った物があるからこそ興味があるんだけどね。」
「勉強熱心ね。」
そういってバスが止まるとナーニャはバスから降りた。
「それじゃあ後で時間教えてね! またね!」
ナーニャはうれしそうに手を振って去っていった。それにしてもあんなに笑顔で楽しそうなナーニャを見るのは久々かもしれない。いつも大人しくしている感じなのに。クレイナも喜んでくれたらいいんだけど。
「クレイナ、うれしいか?」
「うん、嬉しい。」
クレイナは真顔で答える。本当に喜んでいるのだと思うのだけど…なかなか表情が表に出てくれない。あの時から本当に変わったな。
「次はセレイン四丁目。」
家の近くにあるバス停に付くと、俺とクレイナはバスから降りる。クレイナにとって地面についてくれることでノンステップになるため、かなり楽になる。バスから降りるとクレイナは俺の持っていたカバンを持ち、反対方向へと歩いていく。
「一人で帰れるか?」
「平気。」
クレイナはそういって歩いていった。これでも…クレイナはクレイナだからな。さてと、明日に向けて準備をしなければ…。