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8.どうしよう。

「僕が覚えている今日は、…新七歴、521年です。」

 僕の言葉を聞いたルテアさんは、僕の後に入れたお茶をゆっくりと飲み干すと、頭を抱えてしまった。

「うわぁ。当たって欲しくない方の予想が当たっちゃったかー。多次元からの召喚か、時間遡行だろうと当たりはつけてたんだけどねぇ。まあ、僕が元気に長生きしてるのがわかったからいいことなのかな?」

 やがて、ルテアさんは苦笑を浮かべると、ひきつった顔をしていると思われる僕をなだめるようにぽんぽんと肩を叩いた。

「大丈夫。問題自体は少ないんだ。ちょっと、書類処理が増えるだけで。多分、そっちの…521年にあの部屋が接続するのが、朝9時~夕方5時なんだろうね。そういえば、トイレ休憩だとか昼休みはどうしてたの?」

「普通に出たり戻ったりしても、つながってたんですけど…。」

「てことは、条件付帯されてたんだね。今回は突発事故でこっちに出ちゃった、と。原因はさっきのアレだろうねぇ…。」

「そうでしょうね…、あの、僕ちゃんと戻れますか?」

「それは大丈夫だよ。きちんと戻れる。そういうのこそ、僕らの仕事だ。遅くとも今日の夕方には戻ってもらわないと、未来改変タイムパラドックスが怖すぎる。」

「そうですね…。」

 ふと、手の中にある小包が目に入った。イリルの事が脳裏をよぎる。


 ――就業時間中、ちょっとトイレに出るついでに、郵便小包を出してきてほしい。

 ――一番近いポストに投げ入れるだけでいいんだ。な、簡単だろ?


 あの発言は、まさか、今日のこれを想定していたのだろうか。

 だから「自分ではやれない」とイリルは言った…?

 そもそも、この「小包」は、一体なんなんだ? 言われた通り、投函してしまって平気なものなのか?

 だめだ、わからない。

 だが、理解した。過去遡行は、とてもじゃないが理由もなく行うことはできない事だ。そうまでして物を届けるというのは、悪魔の契約の可能性があるレベルの代償には違いない。

 あの変態、何が簡単だろ? だ。とんでもない。

 だが、まだお試しの段階とはいえ、すでに契約の恩恵も受け取ってしまっている。契約違反となったなら、それは…代償の追加請求、決定だ…。

 …僕に、賄えるのだろうか。最悪、生命保険をかけて、自殺して払うことになるかもしれない。

 ルテアさんはすでに仮想魔法処理上で仕事の段取りでもしているのだろうか、指があちこち虚空をさまよっている。今、僕の手の中にある小包のことは、気付いていないように見える。

 …ど、どうしよう。どうすればいいんだ。

「そうだ」

「ひゃいっ?!」

 不意にルテアさんがこちらを向いたから、僕は慌てて小包を机の下に隠した。

 驚きのあまりに声が裏返ってしまったが、ルテアさんは、僕が緊張しっぱなしだからだと見なしたようだった。…バレて、ないよね…?

「ごめん、さすがに大丈夫って言われても、異常事態だもの、焦るよねぇ。とりあえずは処理が完了するまで、お茶でも飲んでゆっくりしてなよ。悪いけど、この支部の外への外出は認められない。かわりに、元いた場所には、ちゃんと通知だして、今日の分のお給料の保障とか、しておくからさ。」

「ありがとうございます、助かります…。」

 そういう保障もあるんだ。運営はしっかりしてるんだな、と、別の意味で焦りながらも、どうでもいいことにちょっと感動する。でも、気遣いといい処理といい、ルテアさん、ほんといい人すぎる。

 でも、支部の中だけの制限は…まずい。任務遂行のハードルが上がってしまった。

 焦りながらも、ルテアさんが同室で、まるで、いや、実際のところ、僕が違反行為をしないか、監視をしているんだろう。さらに身動きのとりようがない。

 どうしよう、どうしよう。どうしよう。

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