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6.無事切り抜けたけど、何かがおかしい。

「ああ、なんだか勿体ないねぇ、これだけ大量の血液…。一口もらっちゃダメ?」

「ダメっていうか、いやあの、早く治療してくださいルテアさん…。」

 名残惜しそうに傷口に熱い視線をやられても、その、…困ります。

 ルテアさんが吸血鬼だったなんて、初めて知った。

 そろそろ貧血でクラクラして洒落にならなくなってきたんで、早めの治療をお願いしてもいいでしょうか。


「じゃあ、後はまかせるぞ。」

「はい、班長こそ、ちゃんと魔界の依頼主まで無事にその子送り届けてきてくださいねぇ。うっかり殺しちゃだめですよ? 魔物の耐久性調査だとかって勝手に始めちゃだめですよぉ?」

「もちろん。仕事だからな。」

 班長、と強調して呼ばれた時、あの人、目線が泳いでいたけれど、本当に信用して大丈夫なんだろうか。

 とはいえ、僕にこれ以上できることはない。うごうごともがく黒いものを魔法で閉じ込めたまま引きずって、班長さんは去って行った。

 さて、とルテアさんが振り向く。フードを下した顔からは、赤い瞳がこちらを覗いていた。

「とりあえず、僕らは情報共有しようか。ええと、まずは自己紹介からでいいかな。僕は、君が誰だかわからないんだ。」

 僕は頷いた。

「僕は、アクトと言います。魔法協会の契約社員をさせていただいてます。ルテアさんは僕の同僚として、三か月前から、あの部屋で空間安定度の記録をつける仕事を教えてくださって、監督してくれていました。」

 前もやった自己紹介をまたやるのも、おかしな気分だ。

 けれど、ルテアさんはまさに三か月前と同じような調子で、こちらを観察している。初対面の挨拶の際、顔や名前を覚えるときと同じ様子に見える。

「なるほど。じゃあ今度は僕の方だねぇ。この支部の召喚管理部門、実働班所属のルテアだよ。50年ぐらいはここにいるかな。」

 ルテアさん、僕が思っていたより大ベテランだったようだ。

 それにしても、召喚管理部門って、確か…。

「違法召喚に対する部署でしたっけ? 警察と連携して」

「そうだねぇ。まあ、警察は魔法に関する事にはあんましアテにならないから、実質こちらに丸投げされてるけどねぇ。」

 ルテアさんは肩をすくめて、軽い溜息をついて見せた。

「とりあえず、アクト。君は今日、いつからあの部屋に?」

「今日は、朝の8時半ほぼちょうどに、ですね。遅刻寸前で滑り込んだので。それ以降は、部屋で監視装置の準備の後は、ずっと記録をしていました。これです。」

 幸い、吹き飛ばされたり爆発したりの中でも無事だったレポート用紙が残っていたので、手渡す。

「確かに、今日の数字だねぇ。六の月、二十日。記録開始は9時からなんだね。」

 けど、こんな記録とるなんて指示もらったっけ? 首を捻っているルテアさん。考え事の最中の独り言だろうか、そう小声で呟いたのが聞こえた。

「この部屋には僕の指示で?」

「そうです。朝、いつもの通り、という指定でしたので。」

「ふむ。こちらの認識としては、今日はたまたま依頼にちょうどよかったから使ったんだけど、基本ここは物置だからね。ここ三カ月ずっとデータをとっていたと君は言ったけれど、本来は使われてないはずなんだよ。実は僕、朝の8時頃にはさっきの捕り物で使う罠を仕掛けに入ったんだけど、その時は誰もいなかった。そもそも、」

 まだ床に転がっている装置を手に取るルテアさん。

 そういえば、壊れてしまったかもしれないけど、とてもじゃないが弁償できないぞ…どうしよう。僕の心配を余所に、ルテアさんは別の事が気になるみたいだ。

「こんなもの、いくら物置だからって広げていなかったのを覚えているんだ。実際、これ稼働可能な状況に設置するのは軽く2時間以上かかるはずだろう? 僕に隠れて君がそんな工作をしたのかと思ったけど、それは時間的にも無理だよね。9時からのデータがここに残ってるんだから。そもそも、そんな工作なんて、やる必要性も感じない。それに君も、なんとなくだけど、嘘をついているようには見えないんだ。…本当に、どういうことだろうね?」

 聞いている僕も、わけがわからない。ルテアさんと一緒に首を傾げた。

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