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第三十三話 貧巷レイリーンライセル(1)

「駄目だ! ここから先は、誰であろうと通さん!!」


 大陸最南端・レクターン王国領レイリーンライセル。深刻な飢餓状態が続いているその町の入り口で、イチカたち一行は足止めを食らっていた。

 特に用はないのだが、負傷した白兎(ハクト)を休ませる必要がある。そこで一番近い町が、このレイリーンライセルだということで訪れたのだ。


 今回は出くわすことはなかったものの――鉤爪かぎづめ男たちの出没する荒野が目と鼻の先ということもあり、下手をすれば大陸一治安の悪い町。

 加えて町政も立ち行かないほどの財政難であり、必要な治療すら受けられない可能性があるが、背に腹は代えられない。


 道端にはやはり、ローマ字表記で『レイリーンライセル』と書かれた看板。その側に立つ一人の男からの、突き刺すような視線を浴びながら素通りしようとした所、突如その手に持った槍を水平に押し出してきたのだ。


「おれたちは怪我人を休ませたいだけなんですが」

「怪我人?」


 イチカの主張に男は目を皿にして一行を見回し、即座に負傷している者を認めた。しかしその姿があろうことか北方に住まうという獣人・兎族うぞくそのもので、血相を変えて首を大きく左右に振る。


「獣人ではないか! ならんならん! 人間ならまだしも獣人など、我々の聖域が穢される!!」

「イヤさっき「誰であろうと通さん」って、」

「ンだとてめェ!!」

「白兎、気持ちは分かるけど落ち着いて」


 男の言い分に矛盾を感じたカイズの突っ込みを、白兎の怒号が盛大に遮る。ミリタムによって応急処置は施されているが、折れた骨などは完全に治っているわけではない。あおいが押さえ込まずとも、直後に迸った激痛でそれ以上口が利けないようだった。


「“聖域”?」

 

 一方、至極冷静に罵詈雑言を聞いていたイチカは後半の台詞も聞き逃さなかった。


「そうだ! この地には神がおわす! その獣人にもたった今天罰が下されたのだろう!」

「イヤこれ自業自得」

「これ以上神の怒りを買いたくなければ、大人しく他所を当たるのだな!」


 白兎が暴れたり喚いたりしなければ傷口が開くこともなかったのだが、目の前の男はどうしても天罰ということにしたいらしい。カイズの微かな指摘は華麗にスルーしている。

 

「神、とは?」

 

 聖域だの神だのと、先ほどからやたらと信仰心の篤そうな言葉を連発している。イチカの素朴な疑問に男は目を見張り、嘲笑を響かせたかと思えば、今度は歌うように次から次へと言葉を紡ぐ。


「あの方を知らぬとは恥知らずな! 貴様も罰が当たるぞ! この世で聖域を造ることができるのはヤレン様お一人! あの方こそ我らが神! あの方は世界を救ったのではない! レイリーンライセルをお救いになったのだ!!」


 拳を握りしめ力説する姿にイチカは溜息を吐く。巫女はあくまでも遣いであってそのものではないはずだが、いつから神になったのだろう。心酔が過ぎて勝手にそう思い込んでいるだけ、という可能性もなきにしもあらずだが。

 

 ラニアと並んで読書家のイチカだが、聖域の分布はさすがに未知の分野だ。図書館にあるらしいと聞いたことはあるが、信心深い者でなければまず探そうともしないだろう。

 ならば、分かりそうな人間に駄目元で訊くしかない。


「おい」

「え?」

「聖域があるのか? ここには」


 ほんの少しだけ首を傾けて、イチカが訊ねた相手は碧だった。

 意外すぎて呆然とする碧だったが、あまりにも突拍子のない質問で答えようがない。地理的なことを訊ねるなら、まずはラニアやカイズやジラーだろうに。

 

 ただ、イチカが考えなしに碧に話を振るとも思えない。前世がヤレンで、サトナの課した試験にも通った碧なら、何かしら手がかりぐらいはと踏んだのだろう。しかし、ほんの小粒程度の期待感だとしても、碧はやはり何も知らないし何も掴んでいない。


 かぶりを振ろうとして、一つ思い出したことがあった。巫女の森にて魔法を伝授してもらった際、サトナから助言を受けたのだ。


 ――『おそらく今のアオイさんの能力は、蕾から少しだけ開いた状態です。そうですね、兎族の里を無事乗り越えられたなら……その頃には、言葉の裏に潜む真実が分かるようになっているでしょう』


(要するに、心が読めるってことだよね。でも、どうやって?)


 悟られないよう男をじっと見つめてみたが、やはり何も分からない。いつかの大芋虫のようにどこかが発光するようなこともなく、時間ばかりが過ぎていく。仲間たちは皆碧に注目していて、その不審さに気付いた男もやがて碧の視線に気付く。


「なんだ貴様! 何か言いたいことでもあるのか?!」

「あっ、いえ、別に」


(うーん、どうすればいいんだろ。やっぱり分かんないって言っちゃおうか)


 困り果てた碧が、諦めて降参しようとしたときだった。


【――う――か――】

「え?」


 誰かの声が聞こえた。

 辺りを見回すが、誰も碧に声を掛けていないようだ。気のせいで片付けることもできたが、瞬間的に張り詰めた空気の感覚と雑音混じりのそれを、有耶無耶にしてはいけない気がして。


 碧はもう一度意識を集中し、心を研ぎ澄ました。今度ははっきりと、単語の羅列がパズルのように組合わさり、意味の通る言葉として脳内に響く。


【こんなキャラは私のガラではないのだが。ヤレン様? のことなんてよく分からないし、これ以上ボロが出る前に帰ってもらいたい】


 随分と冷静で落ち着いた声調ではあるが、それは間違いなく今目の前にいるしかめっ面をした男の声だった。やはりヤレン関連の話は適当だったらしい。愚痴をこぼすくらいなら演じなければいいのに。大の大人の内なる声を聞いてしまいげんなりする碧だったが、次に聞こえた内容が気になり注意深く耳を傾ける。

 

【しかし、人数は同じだな。年代も大体一致している。こんな町にそうそう旅人が来ることもないだろうし、さっさと確定させて通してしまってもいいのかもしれないが】


(人数? 確定?)


【彼らと面識のある副隊長の意見を仰ぎたい。一旦この場を離れたいが、中に入れるわけにもいかないし。誰か来てくれないだろうか】


 聞こえてきた言葉と同時、男から漏れる深い溜息。この男は誰か――おそらく複数人――を町に入れるよう命じられているらしい。聞けば聞くほど先ほどの罵声の主とは思えない。


「あの」


 控えめに声を掛ける碧に、演じ続けるつもりらしい男は依然として険しい表情を向ける。


「えーっと。上手く言えないんですけど、多分その副隊長さんを呼んできた方がいいと思います。勝手に中に入らないようにするし、ここで待ってますから」


 刺し殺しそうな視線から一転、目と口を開け放ち、明らかに驚いた様子の男。やはり今し方の声は、彼のもので間違いないらしい。拳を掲げ上げたい衝動にかられた碧だが、そこは抑えた。


「ちょっと、待っていろ」


 何故考えていたことが筒抜けになっているのか、と言わんばかりに青い顔をしている男。じりじりと後退した後勢いよく方向転換し、町の中へ走っていく。

 呆然と成り行きを見守っていた一行は()()と我に返り、一斉に碧を見た。


「アオイー! すごいじゃない! なに今の?!」

「すっげー! あいつ慌ててたぜ!?」

「今の、もしかして新しい能力?」


 質問攻めに遭うが、驚いているのは碧も同じである。まさか本当に人の心が読めるとは。今のように必要時だけならともかく、緊急性もないのに読み取ってしまうことはないだろうか。もしそうなれば人知れず犯罪が成立してしまう。

 

(新しい能力には違いないけど、こんなこと言ったらみんなに避けられる。でも、ここで言わずにこの先もしも心読んじゃったらあたしが苦しい)

 

 碧が一人苦悶していると、話し声と共に複数の足音が聞こえてきた。


「なるほど。それはおそらく彼らだろう」


 どこかで聞き覚えのある声。ミリタムと白兎以外の一行は反射的に声の方を向く。

 そこにいたのは二人。先ほどの男、そして、高く結い上げた空色の短髪と陽光のような黄色い瞳の人物。深緑の軍服を身に纏い、顔の二倍の長さはある縦長の帽子を被っている。


「ミシェルさん?!」

「げぇっ、またかよ」

「ああ、やはり君たちか。待っていたよ」


 声――ミシェルは碧たちとは対照的に、驚いた様子もなく微笑みを浮かべた。そして後方の演技男を振り向き「間違いない。君はもう下がっていい」と命じる。男は心なしか安堵した様子で町の中へ戻っていった。


「どうしてミシェルさんがここに? たしか、ネオンとその妹さんの身辺警護……だったはずじゃ?」


 ミシェル・カウドは、レクターン王国騎士隊長オルセト・グランディアと共に、二王女の警護に徹しているはず。それが何故ここにいるのか、そして身辺警護で合っているのか分からない、と言いたげな碧が訊ねる。すると、ミシェルは意味深な笑みを見せる。


「レイリーンライセル北東の林付近に突如現れた魔物を、七人の少年たちが見事仕留めた」

「!?」


 碧は勿論、他の皆も瞠目する。


「という情報が、レクターン王国に流れてね。魔物を倒すほどの実力がある君たちなら、王国が抱えている悩みも解決してくれるだろうということで、我々騎士隊の一部が派遣されたわけだ。ちなみにオルセトは、第二王女の命によりここに来ることを禁じられた」


 ミシェルは一人一人に目を配りつつ真面目に説明するものの、後半の一節だけは笑いを噛み殺す。なんとなく一行も、堅物そうな従者に縋り付いて泣きじゃくる第二王女の姿が想像できた。

 

 どの筋の情報かは一行のあずかり知るところではないが、あの鬼はミリタムがたった一人で片付けてしまったので七人というのは正しくない。情報というものは得てして誤報か拡大解釈であることも多いので、目くじら立てるほどのことではないが。


「悩み?」

「そう、悩み。一年ほど前から我がレクターン王国と、隣国であるサモナージ帝国がこの町に援助金や食料を送るようになった。そこまではいいんだが、最近ちょっと困ったことが起きていてね」

「“困ったこと”?」

「援助金が、何故か翌日になると全て無くなってしまうんだよ。町人全てに行き当たるほどの額だというのに」


 一行は息を呑む。それだけの高額な支援がなされているとなれば、目を付ける者がいてもおかしくはない。しかし、独り占めするにもたった一晩で全部運び出すのは不可能だろう。


「盗まれたってことですか?」


 碧の問いに、ミシェルは頷く。


「恐らくね。『援助金を盗んでいく輩を捕らえろ』というのが我々に課せられた任務であり、君たちにお願いしたいことなんだ」

「それで、おれ達の行動を読んでわざわざ先回りですか」


 ご苦労なことで、と皮肉混じりにイチカが毒づく。またそんな言い方を、と諫めるような視線を投げるラニア以外の一行の反応は、苦笑するか目を丸くするかのどちらかに分かれた。翻ってミシェルは大人の対応である。気を悪くした様子もなく、真剣な様相で話を続ける。


「君の言うことも決して間違いではない。むしろ事実と言っても良い。なにせ我々は、王都の治安を良くすることで精一杯だ」


 領土が広くなればなるほど、人口が少なく中心部から遠い田舎の治安維持は後回しにされるのが常だろう。しかしそれは、人が集中する都会と比較して犯罪や暴動が起こりにくいという一般論に基づいたものに過ぎない。他の町村ならともかく、財政難、食糧難、果てには人喰いを目的とする鉤爪男たちの出現。どう考えても後回しにするべきではない。

 ミシェルもそれは十分承知のようで、今までの軽い調子ではなく詫びるように視線を下げる。


「これは押しつけだと、我らが王も自覚しておられるようだった。本来ならば我々だけで、国領を護らなければならないからね。しかし、限られた人数では全ての領地に目が行き届かない。今回も無理を言って派遣してもらったくらいだ。それくらい我々には頼れる人間もいないんだ。どうか」


 とうとうイチカに向き直り、深く頭を下げるミシェル。ただでさえ王都直属の騎士隊員は位が高い。だというのに、その中の副騎士隊長が庶民に腰を折るなど前代未聞のことである。これには一行も動揺し、リーダーの判断を仰ぐように視線を定めた。イチカは僅かに眉をひそめ、小さく舌打ちを零す。


「先を急いでいる。手短に願う」


 早口に告げ、そっぽを向く。他に目撃者がいないとはいえ、さすがに()()が悪いと思ったのだろう。

 ミシェルは勢いよく姿勢を戻すと、神妙な顔つきはどこへやら、人の良さそうな顔で微笑んで。


「そうか~、それは良かった。それじゃあついてきてくれ。オレの住んでいる家に案内しよう」


 驚くべき変わり身の早さである。今の泣き落としが演技だとすれば、先ほど門番をやっていた男は彼を見習うべきだろう。呆気に取られる一行を後目に、ミシェルは意気揚々と歩き出している。すっかり態度が変わったミシェルを見て、イチカは一瞬でも同情したことを後悔するのだった。





 どことなく上機嫌なミシェルは観光名所を案内するかのように、頻繁に立ち止まっては建物を指さし特徴を紹介する。話を聞く一行は曖昧な返事をするだけで、特に感動した様子はない。むしろ、早くその場を離れたいとばかりに居心地悪そうに視線を逸らす。

 

 それもそのはず、彼が指さしたどの建物の前にも、道端で座り込む町人がいたのだ。その誰もが見るに堪えないほど痩せ細り、生死すら判別しかねない有様だった。不愉快な羽音を鳴らす虫がそこかしこで飛び回っており、衛生状態もすこぶる悪い。これではいつ疫病が流行っても不思議ではない。一見何の意味があるのか分からない検問のような対応も、必要以上に外部の人間を入れないための措置だったのかもしれない。


 やがて辿り着いたのは、町はずれの小さな民家。これまでの道沿いに建つ家々に比べると多少小綺麗な外観をしている。そこがミシェルの住まいらしく、少し待つよう指示し中に入っていった。程なくして入り口の扉が開き、ミシェルが顔を出す。離れて立つイチカらを内側から手招きするその表情は、なんだか複雑そうだ。


「ようこそ。ちょっと慣れにくいかもしれないが、我慢してくれ」


 歯切れの悪さに怪訝そうな顔をしながら、順々に中に入り――七つの顔が、全て硬直した。

 扉の向こうは毒々しいインテリアで埋め尽くされていた。血の海に足を浸し片手に生首を持った少年の絵が、玄関の真正面に。廊下に所狭しと並べられた焦げ茶色の棚には、おぞましい奇形生物の数々が水溶液に漬けられている。極めつけは、異様な室内の中央に横たわる洒落にならないモノ。


「なっ、なによこれっ?!」


 食卓の中心部がガラス張りになっているのが気になったのだろう。近寄ったラニアが顔を引きつらせて『それ』を指さした。何事かと覗き込んだ碧らも『それ』を見た瞬間、見事に顔面が蒼白になる。


「これ、ミイラ……?」


 カイズがおそるおそる訊ねると、ああ、とミシェルは微笑んだ。よくこの状況で笑顔でいられるものである。


「あの、もしかして毎日ここに座ってご飯とか食べてるんですか?」

「慣れたらどうってことないよ」


 まさかそれはないだろう、と思って訊ねた碧だったが、予想外の返答に言葉を詰まらせる。


(ミシェルさんって、こんな趣味なのかな……? 聞いて、みようかな)


 妙な勇気が沸きそうになったが、変わらぬ笑顔で肯定が返ってきたらと考えると恐ろしく、碧はそれ以上何も言えなかった。


「ほらほら、そんなとこに突っ立ってないで、どうぞくつろいでくれ」


 そう言ってミシェルが示したのは、異常に濃くけばけばしいピンク色のソファ。顔を見合わせ、しかし厚意を無駄にするのもなんなので、仕方なく腰掛ける。ミシェルはその向かいにあるこれまた派手な緑色のソファに座った。


「さて、見苦しい光景を見せてすまなかったね」


(本当に)


 心の中で頷く一行。


「あの、ミシェルさん。援助金を持っていく人を見た、っていう目撃証言はないんですか?」

「そう来ると思って、聞き込みしておいたよ。決定的瞬間を見た人はさすがにいないが、怪しい人間に絞れば一応目撃者はいたらしい」


 碧の質問を受け、ミシェルが胸元のポケットから小さな紙切れを取り出す。


「だが残念なことに『顔を見た』という人はいなかったんだ。もしそんな人がいれば、犯人は今頃とっくに檻の中だろうがね。身体的な特徴は様々だ」


 一行は黙って耳を傾ける。証言を総合すると、年若く髪の長い男が『ホシ』のようだ。それも、皆が口を揃えて「この町の人間ではない」と言う。それ以外に有力な情報はなく、やはり単独犯という線が濃厚らしい。

 

 外部の人間であればまず土地勘はないだろうし、町民からしても見慣れない人間がいれば怪しむだろう。現に目撃者は複数人いる。それにもかかわらず捕まっていないのは、犯行推定時間が夜半だったからだろうか。


「顔を見た人がいないのに、なんでこの町の人間じゃないって断言できるんだ?」

「雰囲気、だそうだよ。そもそも、ここには若者はほとんどいないからね。出稼ぎならまだ良い方で、都会に憧れて出て行ったまま戻らないのが大半だそうだ」


 ジラーのもっともな疑問は、田舎特有の課題が関係しているようだ。

 

「辛うじて残った若者は、悲惨なものだよ。君たちも耳にしたことくらいはあるかもしれないね。両手に鉤爪をした男たちが、最近この辺りに現れるようになったのだが」


 耳にした、どころではない。虚ろな眼をした、身体中から溢れんばかりの殺気を放つ集団。まるで洗礼であるかのように、この身に深く突き刺さったものだ。碧は狂気に満ちた男たちの顔を今でも鮮明に覚えている。


「正直オレは彼らだと思っていた。彼らは極限まで飢えた、この町出身の人間なんだ。どこであの鉤爪を見つけたのか知らないが、郊外に潜み、迷い込んだ人間や旅人を殺して喰おうとする」


 俯いたまま無意識に両手を握りしめる碧。『彼ら』と何度も対峙しているであろうラニアやカイズやジラーも、表情を硬く強ばらせている。碧らの反応には気付いたようだが、ミシェルの淡々とした口ぶりは変わらない。


「彼らには最早、理性もないらしい。援助金を盗んで食物を買ったのかと思ったが、それにしては彼らによって殺害される件数が減らない」


 ふぅーと長い溜息のあと、切り替えるように両手を組んでテーブルの上に置く。


「なんにしろ、犯人捜しをしなければ始まらない。実は今日、援助金を送ることになっている。犯人が狙ってくる可能性は高い! そこで、だ」


 ミシェルは、今度はズボンのポケットから紙切れを引っ張り出した。広げられた紙は、この町の略地図らしい。地図の至る所に番号が書かれている。


「手分けして、援助金が送られる民家の周りを張ろうと思う」

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