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第二十二話 巫女の森(2)

 ――遠くから、誰かの声がする。

 

 聞き取れるほど明瞭な言葉ではなかったが、自分に向けた呼び声であることだけは確信が持てる。だからあおいは、まだ靄がかかった思考回路はそのままに、うっすらと目を開けた。


「……あれ?」


 仰向けだ。視野の九割を埋め尽くすほど背の高い木々に遮られて非常に分かりづらいが、枝葉の僅かな隙間から見える絶妙な青色は間違いなく空である。後頭部から踵にかけての柔らかな感触は、おそらく草地だろう。


 そして――聳え立つ木々を背景に、こちらを見下ろす三つの人影。最早反射的に名前が浮かぶほどの付き合いである。けれども、彼らに声をかけることは憚られた。


 すぐ側で膝立ちをして碧を見下ろすラニアの、今にも泣き出しそうな顔。そんな彼女よりは遠巻きに様子を見守っているカイズやジラーの、安堵したような表情。


「アオイ~~!!」

「え、ええ!?」


 自らの置かれている状況も、彼らの表情の真意も分からないうちに突然抱きつかれ、碧の戸惑いは増すばかり。


(なんでラニア泣いてるの? あたしのこと置いてったんじゃなかったの? それにあたし、たしか森の中を走ってたはずじゃ……)


 脇目も振らず走り続けていたはずなのに、そこから先の記憶はない。まるでずっと眠っていたかのようだ。混乱する碧の心情など露知らず、ラニアは憤慨しながら泣き喚く。


「も~~びっくりしたわよ! 鳥居くぐった途端、いきなり倒れたんだもの! 寝てるわけでもないし、熱があるわけでもないしっ……」

「う、うん。ごめんね、ありがとう。もう大丈夫だよ」 


 不意に声を詰まらせたかと思うと、これまでの勢いはどこへやら、さめざめと泣き始めるラニア。精神的に不安定なようだ。碧は彼女を宥めながら、つい先ほどの出来事に思いを巡らす。


(じゃあ、さっきのは夢? つねったら痛かったけど……ホントに「ちょっとリアルな夢」だったの?)


 悶々と考えているところへ、大地を密やかに踏みならす音が響く。


 音の正体は少女だった。腰に達する長さの濃灰のおさげが歩くたびに揺れる。眉下で切りそろえられた前髪が、真面目かつ知的な雰囲気を醸し出している。他方、丸みのある胡桃色の瞳は穏やかで、緩く微笑む口元からも親しみやすさが感じ取れる。

 

 何よりも目を引いたのは彼女の衣装だ。首を半分隠す襟と袖口それぞれにフリルのついた、ふくらはぎ丈のワンピース。鎖骨と身体側面に沿うように淡紅色のラインが引かれており、透け感のある薄ピンク色の袖とあいまって、巫女装束を洋風にアレンジしたかのような装いである。そのためか、革製の編み上げブーツがよく映える。

 

 一行より少し年上であろうその少女は碧と視線を合わせると、にっこりと微笑んでたおやかに会釈した。


「はじめまして、アオイさん。『巫女の森』へようこそいらっしゃいました」

「え? は、はじめまして」


(あたし、名前言ったっけ?)


 先ほど目を覚ました直後ラニアが盛大に叫んではいたが、その場に彼女はいなかったはず。離れた場所で耳にしていたとして、誰が『アオイ』なのか即座に判別できるだろうか。


(まあ、見た目で分かるか。みんな先に自己紹介してたのかもしれないし)

 

 碧の内心の戸惑いを知ってか知らずか、少女は変わらず柔らかな笑みを向け続けている。無視するわけにもいかないので、碧はとりあえず彼女のように――といってもやや引きつり気味だが――微笑みを返した。


 しかし、そのぎこちない笑みは少女の名乗りによって呆気なく崩れ去ることとなる。


(わたくし)は巫女、サトナ・フィリップと申します。この聖域の『守護』を務めています」

「!」


 そこはかとなく日本人らしい名前である。祭りの日に自らが立てた「巫女は皆日本人のような名前」という仮説は、どうやら正しかったようだ。喜びを前面に押し出したい衝動を、密かに拳を握りしめることで押さえ込む碧。


「ん? “守護”?」


 カイズやジラーは巫女が聖域を“治める”のだと言っていた。対してサトナは“護っている”。王と騎士ほどの違いに困惑していると、その質問を見越していたかのような補足説明がなされる。


「はい。世界には数多くの聖域がありますが、そのほとんどは巫女が治めることで平静を保っています。ですが、この『巫女の森』は聖域の中でも特別偉大で歴史があります。私たちが規範とすべきお方が治められた聖域を、一般の聖域と同じように扱うなどもってのほか。そのような聖域は治めるのではなく、後世へ語り継ぎ讃えねばなりません。守護の任はそのためにあるのです」


 教本を読み上げているかのように淀みない口調。やはり真面目である。というより、最早信仰に近い情熱が見え隠れしている。


「そうなんですか……。あの、それはそうと」


 碧はまっすぐにサトナを見据える。

 思いの強さに圧倒されながら、心の奥でずっと引っ掛かっていた違和感が離れない。碧自身、それが具体的に何を指すのか明白ではないのだが――悪夢のようなあの出来事と、この巫女は何らかの関わりがあると感じていた。


「あたしに、何か見せましたか?」


 直感の赴くまま、鎌をかける。

 示せるような根拠は何もない。大博打も良いところだ。仲間たちも皆、困惑顔で碧を見つめている。


 張り詰めた空気の中、少しだけ目を見開いていたサトナが小さく微笑んだ。


「お見事ですわ、アオイさん。たしかに貴女(あなた)を失神させ、幻影を見せたのは私です」

「なっ!?」

「何のために?」


 四人の驚きを後目に、冷静に訊ねる碧。そこまで怒りを感じているわけではないものの、自らのあまりにも落ち着き払った声に内心戸惑っていた。


 対するサトナは口元の笑みの形を崩さぬまま答える。


「貴女はご自分が、ヤレン様の生まれ変わりであることをご存じでしょう? 人は生まれ変われば、前世にあった徳や能力、記憶は全て失われます。ですから、いずれやってくるであろう貴女を試すよう、ヤレン様から御言葉を受けたのです」

「あんたの話を信用できるのか?」


 そう訊ねたのは、これまで沈黙を守っていたイチカだった。普段よりも幾分か低い声と、突き刺すような眼差しに、隠しきれない敵意が込められている。


「仮に、その“ヤレン様”から御言葉があったとして、あんたがこの森を護る巫女だと言う証拠はどこにもない。嘘をつく人間ならいくらでもいるし、人間そっくりな魔族もいる世の中だ。そう簡単に信用できんな」


 反論しかけた碧やラニアは、言葉に詰まったようだった。


 サトナは自ら巫女だと名乗り、この森を守護することの意義を説いて見せた。一行が彼女と接したのはほんの僅かな時間ではあるが、物腰柔らかく人当たりも良く、なるほど『巫女』としての素養は十二分に兼ね備えている。

 

 一方で、一行の中に彼女と面識のある者はいない。魔族や悪意のある人間が先回りして、適当な名前を名乗ってやり過ごしていたとしても、誰一人として気付けないのだ。


 微笑みを絶やすことなく指摘を受け止めていたサトナは、不意に数秒瞑目した。まるで、遺憾の意を示すように。


「私は幼少の頃からここを護っていますが、人に疑われたのは貴男(あなた)が初めてです。イチカさん」


 息を呑む。

 碧が気を失っている間、誰一人としてお互いの名を呼ぶことはなかった。イチカも例外ではない。

 

 イチカはサトナのただならぬ『力』を感じたが、警戒を緩めることはなかった。いつかの獣配士じゅうはいしにも素性が割れていたのだ。現時点で魔族でないと断定するのは早計だろう。


「私は魔族でも悪人でもありません。……と言っても信用していただけないでしょう。日本には「百聞は一見に如かず」という良い言葉があるそうですね? お望みでしたら、私の偽りでない能力、お見せ致します」


 イチカの懸念にそれとなく触れてから、彼に視線を向けるサトナ。「偽りでない能力」を見せる許可を求めているのだろう。どこまでも律儀である。視線の意味を正確に読み取ったイチカは目で応じる。頷いたサトナは、静かに双眸を閉じた。

 

 数秒の後。右腕を前方、肩の高さまで持ち上げるサトナ。

 そのまま腕を身体の前で一往復させた直後――ガラスが割れたような音が響き渡ったと同時、彼女の前に半透明な何かが出現した。


「私たち巫女は皆、修行年数や素質に応じて、神様から力をお借りすることができます。その力を『神力(しんりょく)』、神力を体現したものを『神術(しんじゅつ)』と言います。これは結界を張る神術、名を【(サイ)】と言います。もう少し強化したものを、この聖域全体に張り巡らせてあります。どうぞ、ご自由に攻撃してみてください」


 あまりにも唐突で危険な提案に、一行は唖然とする。


 少し前まで鮮明だったサトナの姿がぼやけて見えることから、彼女の輪郭を曖昧にするような何かがあることは明白だが、それが神術と結びつくかと言えば、誰もが半信半疑だった。


 五人が戸惑い気味に顔を見合わせ、意を決したようにラニアが腰の銃を引き抜く。


「あんまり、疑うのは好きじゃないんだけど」


 気が進まない様子で呟きながら銃を構え、サトナの胸――心臓の位置に照準を合わせる。

 言動が噛み合っていない。る気満々だ。碧は慌てて待ったをかける。


「ら、ラニア! いくらなんでも、そこはちょっと」

「なんか、バカにされてるみたいでムカつくのよ」


 この状況下において微笑みを崩さないサトナを目で示すその顔は、まさしく拗ねた子ども。異議に貸す耳はないらしい。


 藁にも縋る思いでカイズやジラーを振り返るが、二人揃って左右に首を振っている。どうやら「もう止められない」ようだ。


 こうなっては見守る以外に道はない。碧はせめてサトナが死なないよう、祈るしかなかった。


 銃声が、静かな森に反響する。


 発砲音と同時にきつく閉じた瞼を、恐る恐る開ける碧。

 撃たれたはずの巫女は、何事もなかったかのようにその場に立っていた。どれだけ目を凝らしても、紅白のワンピースのどこにも弾痕や流血は見受けられない。


 疑問符を浮かべている碧と目が合うと、サトナは悪意のない笑みを返す。


「私には、傷一つないでしょう?」

「どういうこと?」


 碧はサトナにではなく、銃口から立ち上る煙を信じがたい眼差しで見つめているラニアに訊ねる。


「説明するの難しいから、もう一回撃ってあげるわ」


 言うやいなや、再び狙いを定め発砲する。


 射手の思惑通り、急所に向かって突き進む弾丸。ところが、目標まで指先足らずの距離で何かに阻まれるように急停止。暫く中空に浮かんでいたが、突如として上下から加わった圧により押し潰され、見えない何かによって標的から反対方向に投げ捨てられた。


 無力化された銃弾はサトナの足下に落下。側では一発目が同じように転がっている。


 呆気にとられている一行に、サトナは再び柔らかく笑いかけた。


「偽りでは、なかったでしょう?」

「あんたが魔族でないという証拠は?」


 なおも食い下がるイチカ。彼女が何らかの力を持っていることは明らかだが、それだけでは敵でないことの証明にはならない。


「ありません」


 いっそ清々しいほどきっぱりと言い切られてしまい、五人は言葉を失う。


「もしそんな物があるならば、わざわざ【塞】を見せたりはしません。魔物でも現れれば手っ取り早いのでしょうが、残念ながらここは聖域です。この森は、心に穢れのある存在は受け入れません。今度は私が貴男にお尋ねしましょう、イチカさん。貴男が魔族でないという証拠は?」


 そっくりそのまま返されて、言葉に詰まる。

 魔族が皆人間離れした見た目なら、その証明は簡単だったかもしれない。しかし、イチカ自身が口にしたように、これまで相見えたうちの二匹は人間と大差ない姿だった。


 ならば魔族特有の気『瘴気しょうき』の有無はどうか。

 これも、相手の瘴気を察知することはできるが、自らの気が瘴気かそうでないかを判断することはできない。

 さらに、「瘴気を持たない魔族はいない」という根拠もまた、どこにもない。

 

 ――『神術だと……?!』


 獣配士の忌々しげに歪んだ表情が思い起こされる。砕け散るような音こそなかったものの、今披露された【塞】と、白い少女によって施された不可思議な盾は酷似していた。


 互いに一歩も譲らぬ攻防。正しく敵対する者同士の気迫。それさえもこちらを欺くための作戦だったというのなら、一体何を信用すればいいのか分からなくなる。


 黙り込んでしまったイチカを見て、サトナは初めて申し訳なさそうに眉を下げた。


「すみません、意地悪な質問をしてしまいましたね。程度の差はあれど、人の疑念には底がありません。そして、その疑念を解消できる余地があるならば、少しでも疑いが晴れるよう誠意を尽くす必要があると、私は常々思っています。先ほどの結界も、まずはその誠意を示そうとした結果なのですが……不足でしたか?」





「すまなかった」

「どうか気にしないでください。結局のところは私の力量不足なのですから。気付かせていただき、ありがとうございます」


 イチカの謝罪に対し、サトナはやはり屈託のない笑みを浮かべた。嫌味でも皮肉でもない、心からの感謝の言葉。あまり馴染みのない反応に虚を突かれたイチカは、決まり悪そうに視線を逸らす。


 ひとまず殺伐とした空気は取り払われたものの、皆どことなく居心地が悪そうだ。一旦はサトナに対する疑心暗鬼が生じていたのだから、無理もない。

 そんな中、控えめに挙手したのは碧だ。


「えと、サトナさん。質問いいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「さっき、“ヤレン様から御言葉を受けた”って言ってましたよね。あたしも声を聞いたことがあるけど……ヤレン様って四百年前の人なのに、どうやってあたしたちと会話してるんですか?」


 ヤレンに関連する最大の謎だ。碧がこの世界に来たその日の夜、まるで見計らったように彼女は働きかけてきた。ただ会話できるだけではない、存在をも感じ取れるからこそできたことだろう。


 ――【私の体はないが……意識が眠る場所は……『森の中』だ……】


 レクターン王国に向かう前に交わした会話を思い起こす。彼女の言うとおりであれば、すでに実体はなく、意識だけが生きていることになる。一体どんな方法を用いれば、思念とも言える存在が自らの生まれ変わりや後世の人間と接点を持てるのだろうか。


「ヤレン様ほど徳の高い巫女は、死後もなお意識として存在することが可能です。ヤレン様が二十歳という若さでお亡くなりになられた際、魂は貴女の元へ向かいましたが、意識だけはこの世界に留まりました」


(あれっ?)


『手段』を問うたつもりだった碧は、既に知っている知識の補足に留められたことに拍子抜けする。


(でも、あたしが知らないと思って教えてくれたのかもしれないし)


 伝え方が悪かったのかもしれない、と反省しつつ再度訊ねようとした碧だったが、ラニアの方が数秒速かった。


「待って。歴史書には、ヤレン様が最初に村を訪れたときの年齢が「二十歳」とあったわ。そのあと暫くして行方不明になってる。「亡くなった」なんてどこにも書いてなかったわよ?」

「おっしゃるとおりです。厳密には行方不明後、亡くなったのです。ヤレン様ご自身から拝聴したのですから、間違いはありません」

「でも、あれだけ有名な人なのに、誰にも知られず亡くなったなんて」

「非常に進行の早い、不治の病に罹られたのだそうです。感染するおそれがあることから、自ら接触を避け、人里を避け、最期は人目に触れない場所で」

「そうだったの……」


 目を伏せ言葉を濁すサトナ。想像を絶する最期だったようだ。一般に出回っている書物には「行方不明」となった以降のことは記されていないため、そのことに引っ掛かりを覚えたらしいラニアだったが、さすがにそれ以上追及することはなかった。

 

 再び重苦しい空気が漂う。この期に及んでまだヤレンの話を続けるのは荷が重い。碧は暫し考えた挙げ句、話題を転換する。


「そういえば、あたしを試してたんですよね。結果はどうでした?」

「はい。有無を言わさず、合格です」


 合格。全ての受験生が欲する魅惑的な言葉である。


(あ。受験……)


 一年後には自らも立派な受験生であることを思い出した碧だが、頭を振って無理矢理追い出す。


「合格したら、どうなるんですか?」

「アオイさんには、巫女としての素質が十分にあるということになります。修行を積んで『神力』を増大させることができれば、私のように結界を張ることも可能です」


(出た! 『修行』!)


 少年漫画ではお馴染みの修行。碧が慣れ親しんできた漫画の中ではどれもこれも過酷なものだったが、こちらの世界でも同様なのだろうか。高揚感半分、不安半分の中、「結界を張ることも可能」という言葉だけが唯一の救いだ。


「時に、アオイさんは魔族に狙われているとか。お役に立てるか分かりませんが、ちょっとした神術をお教えしましょうか?」

「えっ? 修行は?」

「大丈夫です。私の見込みが正しければ、特段修行は必要ありません」


 どうやら修行は免除のようだ。よく分からないながら、巡ってきた好機を逃す手はない。今はとにかく、何か一つでも力がほしいのだ。

 碧は姿勢を正し、深々とお辞儀をする。


「それじゃあ、お願いします!」

「では、こちらへどうぞ」


 積極的な行動を好ましく思ったのか、サトナが微笑みながら手のひらを彼方に向け碧を促す。嬉々としてサトナの後をついていく碧。残された四人は、そんな彼女の後ろ姿を黙って見送る。


 姿が見えなくなってから、カイズが誰にともなくぽつりと零した。


「なんかさ……アオイ、頑張ってるよな」

「あら~? カイズ、惚れちゃったの~?」

「ちげーよ! 惚れたとかそんなんじゃねーけど、なんていうか、どっちかっていうと妹みたいな」

「それ分かる。なんか見守りたいっていうか、応援したくなるんだよな~~」


 面白いネタを見つけたとばかりに茶化すラニアに、カイズは全力否定。次第に歯切れが悪くなるが、ジラーが頷きながら同調する。直接的ではないとはいえ、内容は揃いも揃って恋愛対象外宣告である。

 とはいえ二人の眼差しは、他意などない純粋な親しみを込めたそれ。


「そうね。いろんなことがあって大変でしょうに、挫けず頑張ってるんだもの。偉いわ」


 ラニアもまた、眩しい物を見るように目を細めて。

 

「さぁ、あたしも負けていられないわ! カイズ、ジラー! 稽古に付き合ってちょうだいね?」

『え゛?』


 唐突に指名された二人の声が、見事に重なった。

 小鳥のさえずりが響き渡る以外は静かな森である。聞こえないはずはない。ラニアは念押しとばかりに貼り付けた笑顔で二人に迫る。


「ちょ・う・だ・い・ね?」

「は、はい……」


 完璧な笑顔の裏に潜む剣幕に圧され、渋々ラニアの後に続くカイズとジラー。

 程なくして木霊する銃声と悲鳴。


「ストレスでも溜まっているのか?」


 イチカは二つの絶叫と発砲音が鳴り止まない森の奥に目をやり、一人呟いた。

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