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キツネツキ。  作者: 大滝のぐれ
一章 狐憑きの少女
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其の五

隼はこのあと、眠くなったといって早々に帰ってしまった。

僕も残りの晩御飯を食べ、さっさとベッドに入った。

もしかしたら、またあの夢を見てしまうのではないかという不安はあったが、眠気には勝てなかった。

もうその頃には、僕は学校で見た不思議な死に方の死体のことなどほとんど覚えていなかった。



朝。

目覚ましが鳴る10分前に目が覚めてしまった。

鳴る前に目覚ましを止めておこうと、僕は携帯を開いた。

パスコードの入力を求める画面が出てくる。

慣れた手つきでパスコードを打ち、ホーム画面を出す。

そこで、不在着信を知らせるアイコンが左上に出ていることに気がついた。

着信履歴を出して、詳細を確認する。

かかってきた時間は3時21分となっている。

こんな非常識な時間に、しかも非通知でかけてくるなんて……

俺はため息をつきながら、携帯をベッドの上に放り投げ、着替え始めた。


着替えて階下に降りると、もうおばさん達は仕事にいってしまったようで、リビングはしんと静まりかえっていた。

机の上に朝ごはんと、また書き置きが乗っていた。

内容は昨晩のものと非常によく似ており、ただ一言、できれば食器を片付けてくれると嬉しい、というような意味の文が付け加えられていた。

朝ごはんを食べながら、テレビを見る。

テレビではニュースが流れており、丁度よく昨日の飛び降り死体について取り上げられていた。

学校の校門がテレビに写る。

「飛び降りたのは同高校の男子生徒で、警察は事故と自殺の両方から捜査を進めています。」

ここで画面が切り替わり、記者がインタビューをしている画面になった。

うちの高校の男子生徒にインタビューをしているらしく、画面には、制服のスラックスとローファーが写っていた。

記者が男子生徒に質問していく。

男子生徒の声は加工されていて、特徴的なものになっていた。


自殺するような子だった?

「いいえ。クラスで目立つようなポジションではなかったけど、別にいじめられてもいなかったし、友達もいました」


なんか変わった所はあった?

「特には……あ、都市伝説とか好きでした。そういう話を振ると、テンション上がってました」


事故が起こる前日はなにか変わったことは?

「いや、特にありませんでした。その日も都市伝説について話してましたけど、それはいつも通りなので……」


ここで再び画面が切り替わり、スタジオに戻った。

僕は飽きてしまい、チャンネルを変えた。

その時、携帯が着信した。

携帯をとり、誰からの着信なのかを確認する。


非通知。


心臓がどくりと跳ねる音がした。

通話ボタンを押し、電話に出る。


「やあ、おはよう彩原君、昨日は電話をかけたのに出てくれなかったね。よく眠れたかい?」


女の声だが、やや高圧的な印象をうける。

こんなしゃべり方をする知り合いは、津々口最中以外にいない。

「なんで僕の携帯の電話番号を知ってるんだよ?」

「君が昨日救急車を呼ぶ際に大きな声で言っていたじゃないか。私が忘れているとでも思ったかい?」

たしかに、僕は昨日救急車を呼ぶ際に救急隊員らしき人に聞かれたので自分の携帯の電話番号を言っていた。

だが、そんなに大きな声で言った覚えはないのだが。

「で、何の用だよ?」

僕は椅子に座り直しながら聞いた。

「あのね、昨日の事件について色々調べたんだよ。

是非とも君に話がしたくてね。午後の一時に駅前の喫茶店まで出てこれるかい?」

津々口は相変わらず大仰な喋り方のまま話した。

今日は何も予定がないので、僕は了解と返事をしようとした。

そこで、疑問が湧いてきた。

「なあ津々口、あの事件は、その……かいい?とかいうのの仕業だったのか?」

そう聞くと、電話越しで津々口の笑い声が聞こえた。

きっと電話の向こうでは、不気味な微笑みを浮かべているに違いない。

数秒の間をおいて、津々口は呟いた。


「『当たり』だよ。恐らくね」



**



指定の場所の喫茶店につくと、既に津々口は店の入り口で待っていた。

津々口は普通の年相応の格好をしており、ゴスロリなどを着てると勝手にイメージしていた僕は少し驚いた。

「こんにちは、彩原君。私も丁度今着いたところなんだよ」

津々口はメニューに目を通しながら呟いた。

所々がおしゃれなカフェらしく飾りつけられた店内には、僕達以外に二人しか客が居なかった。

僕は注文を済ませ、 津々口が他人が聞いていてあまり気持ちのよくない話をするだろうと思い、 できるだけ隅の席を選んで座った。


数分後、津々口がトレーを持ちながら近づいてきた。

津々口の持つトレーの上に乗るものに、驚きのあまり僕は暫く固まってしまった。

トレーにはウインナーコーヒーがのっていたが、ホイップクリームがこれでもかというほどのっており、少しでも揺らすとこぼれてしまいそうだ。

おまけに色とりどりのフルーツがのったフルーツタルトが隣にあった。

「なんだい?そんなトレーの上を凝視して」

「いや、なんでもない……」

津々口は椅子に座り、スプーンでクリームを掬って口に運んだ。

「さて、本題に入ろうか」

タルトをフォークで崩しながら、津々口は話し始めた。

「昨日の事件は、恐らくこれの仕業だよ」

彼女は僕に一枚の紙を渡してきた。

webページを印刷したものらしく、見出しにはでかでかと、


『トビオリさん』


と書かれていた。

「これは都市伝説の1つさ。

発祥は岐阜県。 その昔、小学生の間でトビオリさんという遊びが流行していた。

やり方は、トビオリさん、と3回唱え、目を閉じながらジャンプするというものだったらしいね。

しかし、その遊びが流行った地域で、建物が周りに無い所や、どう考えても落下することが不可能な場所で墜落死している子供の死体が次々と発見された。

そのため親や先生がトビオリさんをやることを禁止して、結果的に全国には広まらなかった……とまあこういう話さ」

津々口はきひ、と笑いながら、タルトを口に運んだ。

タルトを咀嚼しながら、津々口は続けた。

「でも、これは検索してもこれ以上の詳しい話は出てこないし、好事家こうずか達の間でも、この話は創作なのでは、という見解の方が多い。

でもね、彩原君。トビオリさんが本当に実在していて、昨日の事件もそれの仕業であるとしたら、それはとても面白いことじゃないかい?」

僕は、津々口に妙な苛立ちを覚えた。

面白い? ふざけるな。

僕は、津々口が昨日の事件に対して真面目に考えていると思って、話を聞きに来たのだ。

今の話を聞いた限り、彼女は、人が死んだという事実を面白がっている様にしか、僕には思えなかった。


そんな僕の苛立ちを察したのか、ウインナーコーヒーのクリームをコーヒーに沈めながら、津々口は口を開いた。

「彩原君、私がこの事を面白がっていると思っているみたいだね。まあ、たしかにそれは否定しないさ。現に面白がっているしね。

ただ、勘違いしないでほしいね。私は人が死んだという事で面白がっているんじゃない。『怪異によって人が死んだ』という事で面白がっているのさ。仮に怪異の仕業ではなく人間の仕業だったとしても、その犯人にどうやって怪異的に人を殺したのか是非とも聞いてみたいねえ」

そういうと津々口はまた不気味に微笑んだ。

やけに喉の乾きを覚え、僕はコーヒーを飲んだ。

コーヒーは苦かったが、微かに血を思わせる鉄錆び臭さを感じた気がした。

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