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キツネツキ。  作者: 大滝のぐれ
一章 狐憑きの少女
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其の四

気がつくと、僕は川のせせらぎの中にいた。

後ろから名前を呼ばれる。

そこには、父さんがいた。

「父さーー『父さん!!』

僕が言いきらないうちに、勝手に僕の口は動き、体は父さんの方に走っていった。

そうか。

これは夢だ。

しかも、母さんと父さんが行方不明になった、あの日の。

この夢では僕は自分の意思で体を動かすことができないらしい。

夢の中の僕は、父さんとはなしながら川に入って泳ぎ始めた。


やめろ。

もうこの夢の結末は知っている。

見たくない。

やめてくれ!!


そんな僕の思いとは裏腹に、幸せな時間は過ぎ去っていく。

「今日はお母さんの手作りサンドイッチよー」

「いただきまーす……あっ」

「おい、こぼしてるぞ」

「もう~仕方ないわね恭介ったら」

そうしているうちに夢の中の僕はお昼を食べ終えてしまった。

父さんと夢の中の僕は、再び川の中に入っていく。

僕は必死で脳に覚醒を促すが、夢は一向に覚める気配がない。

「あまり深いところ行くなよー」

「はーい」

そして、次の瞬間。

夢の中の僕は川底に引き込まれた。

父さんの声が遠くなっていく。

これが僕の記憶の再現だというのなら、ここで夢は終わる……はずだった。

だが、夢はまだ続いていた。

足を何かに掴まれている感覚があった。

夢の中の僕は、足の方を見た。


どす黒い『なにか』が、僕の足を掴んでいた。


頭上でざぶんと音がして、父さんが手を伸ばしてきた。

しかし、どす黒いなにかは僕の体をさらに川底へ引き摺り込んだ。

だんだん意識が遠のいていく。必死で手を伸ばす。

意識がぷっつりと切れる瞬間、

水面の方に、金色の尻尾を生やした少女が見えた気がした。



**



「ーーっつ!!」

僕は飛び起きた。

身体中が汗でぐっしょりだ。

僕は頭をおさえ、先程の夢について考える。

僕は川底に沈んだ後の事は覚えていないはずだ。

なんで、夢とはいえ『その先』を見れたのだろうか?

どす黒いなにかに足を掴まれた時の感触は、とても真実味があった。

それに、目が覚める直前に見たあの少女は誰なんだ?

考えてもわからない。

ふと机を見ると、書き置きと共に夕食が置いてあった。


『ぐっすり寝ているようなので、ここに晩御飯置いておきます。食べたら食器は台所に持ってきておいてください。

追伸 学校は五日間休校になったそうです。』


休校……

あの死体のせいか……

今ごろ死体を直接見ていないうちの学校の生徒は学校が休みになって狂喜乱舞していそうだが、直接死体を見てしまった僕はそんな事をする余裕はなかった。

僕は晩御飯にかかっていたラップを取り、食事を始めた。


その時、窓に小石かなにかが当たったような鈍い音がした。

「あいつか……」

僕は鈍い音がしたほうの窓を開ける。

窓を開けると、隣の家の窓が見えた。むこうも窓を開け放っており、そこに人がいた。

僕の部屋の窓と、隣の家の窓とは、ほとんど距離がない。

その人は、窓をまたぎ、僕の部屋に入ってきた。

「おっじゃまー」

色素の薄い茶髪に、おそらく世間一般で『イケメン』の部類に入るであろう整った顔。

灰中隼はいなかはやと。僕の親友である。

「隼、いい加減危ないから窓から入ってくるのやめてよ」

「いいじゃんかーいちいちインターホン鳴らして入るのめんどくさいし」

隼は笑顔でそういう。

彼の底抜けに快活な性格が、僕を両親を失った悲しみから救ってくれた1つの要因かもしれない。

「というより、もうこんな時間だぜ?玄関から入るわけにもいかないよ」

隼は僕の部屋にある時計を指さす。

長針が丁度動き、0時12分をさした。


ちょっとした昼寝のつもりが、どうやら寝過ぎてしまったようだ。

「ところで、恭介は死体の第一発見者だったんだろ?大丈夫か?」

隼は心配そうに訪ねてくる。

「ああ、とりあえずは」

「そうか。ならよかった」

隼は笑った。

笑いかたは似ても似つかないが、今日中庭で聞いた津々口の笑い声を思い出した。

あの醜悪な笑みが頭から離れない。


彼女は、何者なのだろうか?

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