鳥かごの街
私が守られているなら、ここは楽園なのだろう。
街をぐるりと囲むように張り巡らされた格子。それは天高く伸び、お互いを交差させると反対側へと身を下ろす。
この格子がいつからあったのかは誰もわからない。ただ、『自分が生まれる前からあった』のは誰にとっても事実であった。
故にその光景に違和感はなく、地平線にも空にもかかる、自分たちを外から隔絶する黒くて重い線は彼らにとっての日常の一部であった。
「らーらーらー・・・」
少女は街の端っこに座り、枠から足を突き出すと、ブランコで遊ぶかのように足を前後に振る。白磁のように白く滑らかな肌は虚空に揺れ、振り子のような動きが起こす風は、つま先から少しばかり離れた所で青色を讃える、眩いばかりに太陽の光を跳ね返す水面を穏やかに揺らしていた。
「るーるー・・・」
街で絶えず流れている流行歌とは違う、どこか懐かしさすら覚えるリズムの即興歌を口ずさむ。街の喧騒も人々の話し声もここではどこか遠く、非現実的なものへとなっていた。
少女はこの鳥かごの世界が嫌いだった。正確に言えば「嫌い」と言うよりは「離れ」たかった。しかし彼女は自分がこの世界から離れることが出来ないのを知っている。ひ弱で気弱で、自分の身を守ることすらできないのに、この格子の先にある『世界』を歩くことなど出来ないと彼女は考えていた。
「らーとーなー・・・」
だから彼女は今日も世界の端っこで足を揺らす。せめてその目に格子から解き放たれた青い『世界』を映し、精一杯の勇気をもって『世界』に体を晒すために。