九升目。
クロスロード。
栄子の駄菓子屋の看板にはそう書かれている。
駄菓子屋らしからぬ名前だけど栄子らしい名前であったりする。
名前の由来はクリームというバンドの一曲から。
幸太はこの駄菓子屋へ初めて来た時、驚いてばかりだった。
今のアキを笑えないほど驚いていた。
大体がロックであったりする。
そしてノスタルジックであったりする。
幸太をそんな変わった駄菓子屋へ連れてきたのは岸田だ。
ビールを飲みながら、ドアーズのまだ名前の思い出せない曲と、
外で鳴くせみの声を聴きながら、昔、というほどではない。
ちょっと遠い。そんな少し前の事を幸太は思い出していた。
思い出し、しばらくぼーっとしていた幸太の腕に、
パシっ、という音と同時に軽い痛みが走る。
「痛っ」
思わず声を上げて見れば、外からアキが銀玉鉄砲を持って幸太に狙いを定めている。
「お、アキちゃんうまいね」
「えへへへ」
栄子が褒めて無邪気に喜ぶアキ
「何やってんだよ。痛いだろ」
「だって幸太、ぼけーっとしてるんだもん。
だから栄子さんが一緒に遊ぼうって。これ、ぎんだまてっぽうって言うんだって。
知ってた?」
「知ってるよ、子供の頃遊んだよ。
っていうか地味に痛いんだよ、それ」
ほんのり顔が赤くなっているアキがまた、えへへと笑う。
テーブルを見ればコーラはとっくに空でビールが減っていた。
「幸太がぼけっとしてるからアキちゃんと飲んで遊んでたのさ」
「遊ぶのいいですけど、鉄砲人に向けないで下さいよ」
「このおもちゃは人に向けて遊ぶもんじゃないか。最近がうるさすぎるの」
「確かに昔撃ち合いしてましたけど・・・・・・」
「撃ち合いしてたの、幸太?
よし!幸太ー。撃ち合いしよーよ!」
「やらない」
「えー・・・・・・」
つまらなそうにするアキに
「アキちゃん、それと違ってね。バネを改造したとっておきのがあるよ」
「っ!それ危ないです!やめてください栄子さん!!」
改造という言葉に目を輝かせているアキと、
微笑んでいる栄子に危機を感じて幸太は声を上げて外へ出る。
「冗談だよ。そんな危ないもの人に向けちゃ駄目でしょ」
「なんか信じられないというか説得力ないんですけど」
ぶつぶつ呟く幸太を見て
「アキちゃん、幸太が怒ってるよ」
「幸太怒っちゃった?」
栄子とアキが笑いながら指をさす。
「だから二人で冷やかすのやめて」
「はいはい、ごめんね。あんたが魂抜けたようにしてたもんだからさ」
「うん。幸太、何か変だった」
「そんなに俺変でした?」
「幸太。あんた、また思い出してたんでしょ」
「・・・・・・えぇ。まあ、少し」
「思い出すって?」
「ん・・・・・・。
アキちゃんは、幸太が話したくなったときに直接幸太から聞いた方がいいね。
ね、幸太。それじゃあ幸太も起きたし、そろそろ奥へ行こうかね」
少し笑いきれていない笑顔で栄子が店の奥へ歩いて行く。
「行くかー。アキ」
「うん。って、どこへ?」
「ついてこい」
「はーい」
二人は栄子の後ろから店の奥。栄子の出てきた奥へと向かった。
駄菓子の店内を抜け、奥へ。
そこは二階のある吹き抜けのガレージ。