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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒九
89/89

八十八升目。みんな集まる3

{閑古}のドアを開けると文が出迎えた。

「皆様、いらしてます」

心得た顔で微笑む。

事情を伝えこの日は貸し切りとなっていた。


「アキちゃん!」

理穂がかけより抱きつく。

「俺も俺も」

滝口も寄ってきたが、

「あんたが抱きついたら犯罪ー」

あっかんべーとあしらわれる。


「えへ、あはは・・・・・・」

軽く目尻を拭い笑いながら理穂を抱き返し、

滝口の方へ向かい軽く抱きつく。

「お、おおう」

照れながら頭をかく滝口。


そして二人の向こう側。

テーブルに手をかけ、椅子に座り優しく微笑む栄子の所へ。

栄子は何も言わず抱きしめる。

抱き返しながら嗚咽をもらすアキ。


しばらく時間が止まったように皆じっとしていた。

夏の日差しが薄いカーテンを通しやわらかく差し込んでいた。


「はい、それじゃ席に着こうかしら」

パン、パンと軽く手をうちあわせ信子が空気を動かす。

「席順ってどうします?」

道満が聞く。

「そうね、丸テーブルだから・・・・・・。

私と栄子さんでアキちゃん挟んで、あとは若い子で適当に」

「いやあの、俺皆さんとは初対面なんすけど」

「いいじゃない。今から知り合えば」

「はぁ・・・・・・」

「ミッチーは変なところで腰が引けるよね」

アキが茶化す。

「お前なぁ」

文句を言いかけた道満の肩へ手を回し、

「そうか、お前さんが道満くんか。よろしくなー」

席へ促す。つい最近のことだったのに滝口の軽いノリが懐かしい。

「道満くん、よろしくね」

少しかがんで道満に挨拶をする理穂。

長身の理穂の方が道満より少し背が高い。

長い黒髪が流れ軽くかき上げる。

その仕草と顔の距離の近さで顔が赤くなる道満。


心なしか笑顔がこわばり軽くプルプルと震えている文。


結局席順はアキを中心に右に栄子、左に信子。

信子の隣に滝口、栄子の隣に理穂。滝口と理穂に挟まれる形で道満となった。

栄子と信子が定期的に連絡しあっていたおかげで、

皆だいたいのことは把握していたので自己紹介は軽く早く終わり、

まずはグラスビールで乾杯。


信子がアキを引き取ってから後のこと。今までは電話でしかしてなかった話。

直接顔をあわせ信子側と栄子側で報告しあいながら歓談。


鮎の塩焼きと肝をペーストにしたもの。バケットなどが運ばれてくる。

料理にあわせた白ワイン。


「岸田さんのことが終わったのは幸太も安心してると思います。ありがとうございます」

信子は滝口と理穂に深々と頭を下げる。

いえいえいえいえ、と手と首をふる二人。

「元々これは俺達がやらなくちゃいけないことだったので」

「そうです。信子さん、どうか頭をお上げ下さい」

少し涙ぐみながら、

「お二人とも・・・・・・。ありがとう。幸太の分まで、ありがとうございます」

顔を上げ、

「オーナーさんにも直接お礼を申し上げたかったのですけれど・・・・・・」

栄子の方を見る。

「あの子はあれで忙しくてね。参加できず申し訳ないって。

で、代わりにこれを預かってきましたよ」

「?」

数枚の写真が差し出された。


そこにはバックヤードの建築のために図面とにらみあってる幸太。

建築が始まってから現場で細かいところをチェックする幸太。

完成した時の打ち上げで楽しそうにはしゃぐ幸太が写っていた。


あの子こういうのお母様に見せてなかったらしいので、と。

オーナーから言付かって来たという。


「ホント。あの子は・・・・・・。

私のためにバルコニー作ってくれた時も何の素振りも見せないであっという間にやっちゃって。

仕事してるところ見せてくれなかったんですよ・・・・・・」

鼻をすする。

「気恥ずかしかったんじゃないでしょうか?幸太くんは優しくて照れ屋だったと思います」

「そうですね。それで変なところで意地はって」

信子と栄子は顔を見合わせて笑った。


「写真、ありがとうございます。オーナーさんにもまたあらためてお礼しなくちゃいけませんね」

愛おしそうに一枚一枚優しく撫でながら少し遠い目をした。


皆もそれぞれ思い出にふけり静かな時が流れる。

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