八十七升目。みんな集まる2
墓参りのあと{閑古}を訪れたアキ、信子、道満。
食事中アキの、幸太が遺したアキの携帯に着信があった。
画面の名前を確認して少し戸惑ったあと、
ゆっくりと通話ボタンを押す。
「も、もしもし・・・・・・」
おどおどと声を出す。
信子と道満は手を止め静かにアキを見守っていた。
「アキちゃん。大丈夫?あ、えっと。
今話しても大丈夫っていうか、あのさ、えっと・・・・・・」
不器用な優しさが通話越しに伝わる。滝口の声だ。
「ちょっとあんた貸しなさいよ。あんたじゃ折角出てくれたのに切られちゃうわ」
横からするキリッとした声は理穂。
携帯を取り合うやりとりが伝わってくる。
思わずアキはクスリと笑う。
少しして、
「アキちゃん、どうだい?そっちは」
落ち着いた声。栄子だ。
どうやら誰が話をするか決まったようだ。
「栄子さん・・・・・・」
思わず涙ぐむ。
「えっとこっちは、ですね。えっと・・・・・・」
「ゆっくりでいいよ、ゆっくりで」
「・・・・・・はい」
涙をぬぐい深呼吸。
「アキちゃん」
「はい」
「電話に出てくれてありがとう」
アキは無言で頭を振る。
それを察したかのように穏やかに言葉を続ける栄子。
「今あたし達、滝口の船にいるのよ」
クスクスと笑いながら、
「滝口がね理穂に借りができちゃって。それで一日クルーズしてるの」
「クルーズ、ですか」
「うん、クルーズ。滝口が船出して魚釣って料理作ってお酒運んで。
すごく快適。あたしとオーナーは便乗してるんだけど」
いたずらっぽく笑う。
「あはは、楽しそうですね」
思わずつられてアキも笑う。
アキの笑い声をしっかりと聞き、
「そっちは、良さそうね」
顔が思い浮かぶ優しい声。
「はい」
しっかりとこたえる。
「こっちは今大変だけど」
今度は少し大きな声でケラケラ笑う栄子。
少し離れたところから滝口、理穂が騒いでるところへ、
オーナーが割って入る声が聞える。
「あはははは」
アキも思わず大きめの声で笑ってしまい道満に軽く頭を叩かれる。
「痛いよ、ミッチー」
「店内だろーが」
「うぅ、ごめん」
「構いませんよ。今、お客様は皆様だけですから」
近くにいた文がにっこりと道満へ笑いかける。
近くにいたというか特に用が無い限り道満の近くにいるのだが。
そのやりとりを聞いていた栄子がはずんだ声でたずねる。
「アキちゃん、道満君がそこにいるってことは信子さんも?」
「はい、います。三人一緒です」
「ちょうど良かった。ちょっと信子さんとかわってくれるかい?」
「はい。わかりました」
信子へ電話を差し出すアキ。
「もしもし、信子です」
―――そして秋が来る前。夏に皆で会うことが決まった。




