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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒九
86/89

八十五升目。そして冬は過ぎ3

「なぁ、理穂」

滝口は薩摩切子の小鉢を手に取り明かりに透かし見ながら、呼びかけた。


理穂は無言でノートPCを叩いている。


少しふくれた顔になり、

「おいー、理穂。理穂さん」

また、呼びかけた。

「聞こえてるわよ。それ買い手がついてるんだから壊すんじゃないわよ」

モニタから目を上げ滝口を軽く睨む理穂。

「聞こえてるなら一回目でさ・・・・・・」

「忙しいの。今、忙しいの」

睨んだ目つきに更に鋭い光が宿る。

「すいません」

そっと小鉢を置き、椅子へ座り紅茶を啜った。


理穂の店の事務室兼休憩室兼応接室。

幸太、アキ、理穂。三人でお茶とお酒を飲んだ部屋。


岸田の遺品整理を始めた滝口。オーナーと一緒に大まかに分類し、

使うに相応しい人へ無料で分ける。そう決めたは良いものの、

そこからは苦手すぎる作業で事務処理や手配に困り、

理穂に頼み込んだ結果任せっきりになってしまっていた。


オーナーは、というと。

「あたしにこれ以上面倒見ろと?」

一喝であった。


紅茶に飲み飽き、ウィスキーへ手を伸ばした時。

「んー、終わった」

理穂は腕を伸ばし、背中を後ろへそらす。

細い体がきれいにしなった。ふぅっと一息。


「お疲れ様」

「ホントお疲れよ」

眉間を指でもみながらこたえる。

「丸投げして悪かったって」

「まったくよ。あんた、昔っからこういう作業は・・・・・・」

「でもさ」

「そうね、これで片付いたわね」

「うん」


岸田の遺品は行くべき人のところへと。ようやく、やっと。


「じゃ、約束の」

首を傾けいたずらっぽい笑いを浮かべる理穂。

「ほいよ。任せとけ」

自信に満ちた笑顔で胸を叩く滝口。


翌日。滝口の船。

「海、海の上で飲む!最高ね」

折りたたみの椅子へ横になるようにもたれかかり、

波に揺られ滝口秘蔵の日本酒を飲んでいた。


滝口は釣りと調理にいそしんでいる。


これが理穂と滝口の約束。

事務処理と手配を引き受ける代わりに理穂が出した条件。


船上で秘蔵の酒と料理の報酬。


オーナーと栄子もいる。

理穂から話を聞き、一人も三人もいいじゃない、と押しかけたのだ。


「はぁあああ。今日がいいお天気になるって知って、

意地で終わらせたかいあったわー」

「それで昨日はあんなに鬼気迫ってたんかよ」

料理を運んできて理穂の横のテーブルへ置く。

「いいじゃない。結果うまく早く片付いたんだから」

「まあそこんとこはホントに感謝してるよ」

笑いながら栄子達の方へも料理を運ぶ。


凪いでる海。柔らかな日差し。

「少し冷えるけど、春ね」

遠くを見、栄子がつぶやく。


そして、また夏が来る。

あの夏を思い出しているのかその表情からはわからない。

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