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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒九
85/89

八十四升目。そして冬は過ぎ2

ふと気配がして横を振り向くと信子が立っていた。

「昔ね。昔、ここから幸太が転がり落ちてね。小学校の頃」

クスクスと笑いながら目を細める。

「え?ここから?ここから落ちたんですか?」


アキ達の立っている場所から川までは3メートルほどの高さ。

護岸のコンクリである程度傾斜がついていてそのまま落下ということはない。

それでも急斜面ではある。


アキは目を丸くして傾斜を覗き込み信子を見上げる。


「ほんっと馬鹿な子でね。幸いここ、そんなに深くない川で流れも緩やかだったから、

溺れることもなくて。怪我も擦り傷程度で済んだから良かったんだけど・・・・・・」

空を見上げて一息吐く。

「もうこの辺の人たち皆で助けてね。大騒ぎだったわ」

ついこの間のことのように思い出して笑う。

「落ち着きのない子でね。お墓参りしてる時に退屈だったんでしょ。

勝手に動き回って・・・・・・。アキちゃんとは大違いね」

アキの肩を抱き寄せる。

「さ、そろそろ行きましょう。春って言ってもまだ少し冷えるわ」

「もういいんですか?」

「ええ、ご住職に挨拶もすませたから。待たせちゃってゴメンね」


信子、道満、アキは幸太の家の墓参りに来ていた。


掃除をしお参りした後、信子と道満は住職と話をし、

その間アキは何とはなしにここに佇んでいた。

「信子さーん、アキ。昼メシ。昼メシ行こう」

道満が駐車場から手を降っている。


「あの日、あのワインの日。あの時の道満、凄かったわね」

道満の方へ手を振りながら信子はつぶやく。

「はい。びっくりしました。いつもはあんなに馬鹿っぽいのに」

「ホントねぇ。・・・・・・あの子にはたまにハッと驚かされることあるのよね」

「そういえばお裁縫得意だったり、細かいこと気がついたり」

「ねぇ。いつもはあんな感じなのに」


道満は大きくぶんぶんと手を振っている。


「それじゃ行こっか」

「はい」

ニッコリと応え信子と歩きだす。


三人は車に乗り、レストラン{閑古}へ向かった。

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