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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒九
82/89

八十一升目。電話。

ケーキの後の紅茶をゆっくりと愉しんでいたひと時。

電話が鳴り、明美が受話器を取った。


「はい。あ、えぇ・・・・・・。

そうなんですが、それは・・・・・・」

顔が曇り道夫の方を見る。

道夫は黙って受話器を受け取る。

「兄さん。その事なら今は話すときじゃない」

「自分勝手なのは兄さんの方だろ。

今更都合よく・・・・・・・」

アキの方を振り返り笑顔を見せ、

「とにかくだめだ。しばらくはだめだ。特に今日はだめだ」

それだけ言って電話を切る。


「あの、今の電話って、あの。お父さん・・・・・・?」

怯えた目で訊ねるアキ。

「うん、兄さんだった。心配しなくていいよ」

答えながらアキの頭をポンと軽く叩き席へ戻る。

道満は何か言いたげな顔をして、黙って視線を宙へ向けていた。



しばらく四人口を閉ざし、雪の降る音だけが体の芯まで沁みてきたころ。


「ただいま」

玄関から信子の声が響く。

ホっとした空気が満ちて、

「はあい」

明るく大きな声をかけながら明美は小走りで玄関へ向かってゆく。


「雪の中大変だったでしょう」

「大丈夫よ」

そんなやりとりをしながらリビングへ入ってくる二人。


「ん?何かあったの」

信子は買い物袋をテーブルに乗せ、

アキと道満の顔を見るなり訊ねる。

「特にないですよ」

信子から顔をそむけテレビの方を見る道満。

アキはうつむき黙って紅茶をすすっている。

道夫と明美へ顔を向けると二人は軽く目でうなずいた。


「そう、それじゃ」

言いながら明美へ買い物袋を渡す。

「ありがとうございます」

袋を受け取りながら、

「信子さん、それは?」

信子の足元の荷物へ視線をやる。


「これね。これが欲しくて行ってきたの」

信子は弾んだ声でニッコリと笑う。

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