八十一升目。電話。
ケーキの後の紅茶をゆっくりと愉しんでいたひと時。
電話が鳴り、明美が受話器を取った。
「はい。あ、えぇ・・・・・・。
そうなんですが、それは・・・・・・」
顔が曇り道夫の方を見る。
道夫は黙って受話器を受け取る。
「兄さん。その事なら今は話すときじゃない」
「自分勝手なのは兄さんの方だろ。
今更都合よく・・・・・・・」
アキの方を振り返り笑顔を見せ、
「とにかくだめだ。しばらくはだめだ。特に今日はだめだ」
それだけ言って電話を切る。
「あの、今の電話って、あの。お父さん・・・・・・?」
怯えた目で訊ねるアキ。
「うん、兄さんだった。心配しなくていいよ」
答えながらアキの頭をポンと軽く叩き席へ戻る。
道満は何か言いたげな顔をして、黙って視線を宙へ向けていた。
しばらく四人口を閉ざし、雪の降る音だけが体の芯まで沁みてきたころ。
「ただいま」
玄関から信子の声が響く。
ホっとした空気が満ちて、
「はあい」
明るく大きな声をかけながら明美は小走りで玄関へ向かってゆく。
「雪の中大変だったでしょう」
「大丈夫よ」
そんなやりとりをしながらリビングへ入ってくる二人。
「ん?何かあったの」
信子は買い物袋をテーブルに乗せ、
アキと道満の顔を見るなり訊ねる。
「特にないですよ」
信子から顔をそむけテレビの方を見る道満。
アキはうつむき黙って紅茶をすすっている。
道夫と明美へ顔を向けると二人は軽く目でうなずいた。
「そう、それじゃ」
言いながら明美へ買い物袋を渡す。
「ありがとうございます」
袋を受け取りながら、
「信子さん、それは?」
信子の足元の荷物へ視線をやる。
「これね。これが欲しくて行ってきたの」
信子は弾んだ声でニッコリと笑う。




