八十升目。道夫明美
血管が広がって行く。温められた血が循環して行く。
「信子さん、どうしたんだろう」
呟きしばらく水面を見ていたが一息吐いてから、
湯船の中で大きくのびをする。
風がひゅぅうと窓を軽く揺らしていった。
翌昼。
「あーきーちゃーん。大きくなったねぇ」
アキはひたすら頭をなでまくられていた。
「いっやぁー、大きくなっても昔と変わらないねえ」
後ろから抱きかかえられて膝の上に座っていた。
「あなたいい加減にしたらどうですか」
あきれたように明美が近づいてきて道夫の手を軽く叩く。
「男同士のスキンシップだよ」
「見た目は完全に通報物ですけどね」
言いながら道夫からアキを優しく離し、
「アキちゃん紅茶とケーキ用意してあるから」
と誘った。
二人は道満の両親でアキの父親の弟が道夫だ。
「よし。俺も一緒にケーキ食べるぞー」
「あなたは大人しくしてなさい。アキちゃんが迷惑してるでしょ」
「そうなのか?迷惑だったか?アキちゃん」
泣きそうな顔でアキを見る。
「ボクはあの、えっと。全然迷惑じゃないです」
「アキちゃん。嫌なことは嫌って言わなくちゃだめよ。
ホラこんなに髪の毛もボサボサにされちゃって」
手ぐしで優しく髪を梳く。
昔と変わらない。
ここは昔遊びに来たときと変わっていない温もりに満ちていた。
アキは心地よく二人に身を任せている。
「相変わらず溺愛してんなー。オヤジもお袋も」
頭をかきながら道満がやってきた。
「お前だって可愛いぞー」
抱きつこうとする道夫を軽くとびはねて避け、
「お袋、信子さんどこ?」
明美の方へ向く。
「スーパーよ。買い物行こうとしたら、
欲しい物があるからついでにって代わりに行ってくれたの」
「そか。ところでさ」
「何?」
「オヤジもお袋もアキの服装にはなんもツッコまねーのな」
「似合ってて素敵じゃない」
「可愛い」
クリーム色のセーターに赤茶色のロングスカート。
この間のデパートで信子に買ってもらった物だった。




