七十八升目。
「俺や幸太以外にも岸田の周りには色んなのが集ってましたよ。理穂もその中の一人だった。
でもあいつを中心に深く回ってた関係は俺と幸太とあと数人だけで・・・・・・」
一度言葉を切り、深く息を吸い込み、
「言い方悪いですけど理穂がそこまでショックを受けるようなことじゃなかったです」
吐き出した。
「それじゃ何で理穂はずっとお前らとつるんでたんだと思う?」
「なんとなく腐れ縁で、だと思ってました。幸太が死ぬまでは」
「理穂と幸太をつなげたきっかけは?」
「そりゃ・・・・・・・。あ・・・・・・・」
はっとして口をあける。
「岸田がいなければ始まってなかったんだよ」
立ち上がり背をのばす。
「告白しようかどうしようか迷っていたタイミングで岸田が死んだ。
幸太との始まりに岸田が根付いて複雑になってたんだ、あの子は。
結局告白することもできないでくすぶっていたんだよ」
「オーナー」
「何だ?」
「今夜は理穂を呼んで飲みながらゆっくり話しましょうか」
「そうだな。そうしよう。それじゃ、続きをやるか」
「はい」
明るく返事をしながら軽く笑う。
――――――
深夜。
しん、と静まり返った廊下をこっそりと歩き、
バルコニーへ向かう。
広めのバルコニー。
展望が良く雨の日でも使えるようにガラスがうまく使われている。
人を呼んで騒ぐことや料理を作ることができるようにちょっとしたキッチンも付いている。
「あの子がね、私のために設計してくれたのよ」
信子はそう言って微笑んでいた。
幸太の残した信子さんへのプレゼント。
そしてボクの今お気に入りの場所。
窓を開けて冷たい夜風に顔をあてる。
ポケットから缶チューハイを取り出しプルタブを引く。
ぷしゅという音と一緒に柚子の香りが鼻をくすぐる。
口をつけようとしたその時。
「アーキちゃん、盗み酒?」
悪戯っぽく笑う信子の声。




