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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒八
77/89

七十六升目。頃合

「アキちゃん元気にやってますかね」

「信子さんが引き受けてるんだ。余計な心配しないで手を動かせ」

「そりゃわかってるんですけどね・・・・・・」

楽器を丁寧に梱包しながらオーナーの方を振り返る滝口。

その目に浮かんでいる割り切れない感情。

オーナーはそれを真っ直ぐ受け止め無言でしばし見つめあう。


短くため息をつき、目を伏せながら両手を軽くあげ、

「滝口、休憩にしよう。ビール持ってこい」

楽器から少し離れた椅子へ腰掛けタバコに火を点ける。


ここはバックヤード。その奥の倉庫。


入り口近くに置いてある

“飲料”

と雑に書かれた箱から缶ビールを取り出し、

数本持ってくる滝口。

「ありがとな」

タバコの煙を吐き出しビールのプルタブを開け、一口飲む。

滝口も座りながらプルタブを開ける。


タバコの火を消しながら、

「なあ滝口。ここは頃合だと思うんだが」

優しい口調で語りかける。

「頃合、ですか」

うなだれ両手に持ったビールを見ながら答える。

「ああ、頃合だ。良い頃合とは言えないが」

岸田の遺品を眺めながら二本目のタバコに火を点ける。


幸太が死んだ後。

アキのことでしばらく慌しかった。

死者よりも生者。生きている者をとにかくどうにかしなくてはならない。

それらが落ち着きアキは信子のところへ。


しばらくしてアキから手紙が来た。

理穂、滝口、オーナー、栄子へとそれぞれ別々に。

書かれている内容はだいたい同じようなもので、

少しだけ個別のことが書いてある。


「一通誰かのとこへ送ればいいのになあ」

皆同じようなものと知った滝口はぼやいたが、

「丁寧に全員分けて書くの、アキちゃんらしいでしょ」

理穂に小突かれた。


誰かがいなくなっても生活は回る。止めるわけにはいかない。


「幸太のやつまで先に死ぬんだからなあ・・・・・・」

天井を見上げつぶやく。

「だからさ。だから、これ以上もう先に延ばすな。

ここらでちゃんとケリをつけろ」

「でもオーナー、俺らさ。やっと少し進めると思ってたんですよ。

アキちゃんがきて、幸太が変わって・・・・・・」

「そうだな。やっと重い腰を上げようとしてた。

その矢先にあいつは死んだが、それでまた立ち止まれば・・・・・・。

次はもう歩き出せなくなるぞ」


「・・・・・・頃合、かあ」

ビールを一気にあおる滝口。

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