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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒八
75/89

七十四升目。

少なくなった緑茶の残りをゆっくりと飲み窓の外を見る。

『ほんとに積もってきやがったなぁ・・・・・・』

車を出した運転手としては少し気が重い。


「お見えになるの、少しかかりそうですね」

いつのまにかウェイトレスが横に立ち、道満と同じ窓の外を見ていた。

丸い銀色のお盆。サービストレーから新しい緑茶をテーブルに置き、

「よろしければ、これも」

小さく可愛らしい和菓子を置いて飲み終わりの緑茶を下げる。

「あ、ども」

軽く頭を下げてから照れ隠しに後頭部をかく。

「あの・・・・・・。これ?」

「お待ちしている間雪を見ながら和菓子も、と思いまして。お嫌いでしたか?」

「いえいえいえ、でもこんなのいいんですか?」

「ほとりはお客様のくつろぎ空間ですから」

ニコリと微笑み頭を下げ、また、外を眺める。


「私こうやって静かに雪を見るの好きなんです」

「ああ、なんていうか風情があっていいですね」

「道満さんもそう思います?」

「はい!はい!思います!ただ・・・・・・」

「ただ?」

「雪かきとか車の運転考えると、ちょっと手放しじゃ・・・・・・」

彼女は小さな声であはは、と口を隠し笑ったあと、

「そうですね。見てるにはいいですけど暮らしが入ると」

どことなく悩ましい顔になる。


そんな彼女の顔をじっと見つめ、

「あのぉ、ウェイトレスさん俺なんかにかまってていいんですか?」

「俺なんか、だなんて。大切なお客様ですよ」


『お客様。あー、まあ、そうだな。お客だもんな』

うなだれふぅと吐息を吐きまた窓の外を見ようとしたとき。


「道満さん」

「はい」

「ウェイトレスさんでは他の従業員もいますので、

よければ名前でお呼びください」

「え?いいんすか」

「はい、お気軽に」

「あ、じゃあ、ええっと」


彼女は名前を呼ばれるのを嬉しそうに待っている。


「ええっと・・・・・・。ええっと。

すんません、俺あなたの名前知りませんです・・・・・・。すんません」

テーブルに額をくっつけそうになるほど頭をさげる。


彼女は小奇麗なメモ用紙を取り出し、文と書いて道満の前に差し出す。


「ふみ、です。文と書いて、ふみ。よろしくお願いしますね」

控えめな笑顔と少し照れたような表情。


道満は声が裏返らないように、

「ふみ、さんですか。素敵な名前、ですね」

いっぱいいっぱいで返すのが精一杯だ。


言葉を交わすのも視線のやり場にも困ってしまった道満は、

しばらく外を無言で眺める。


このまま延々と外を見てるのもいいかな、

と思っていた道満だが流石に気になることがあって声をかけた。

勇気と気力をふりしぼったことは言うまでもない。


「そういえば文さん」

「はい?」

「文さん、さっきからここにいますけど、お仕事大丈夫なんすか?」

「道満様以外のお客様は先ほど帰られました。今のお客様は道満様だけになります」

「え、あ。じゃああの、新しくお客がくるまでは・・・・・・」

「はい。ご迷惑でなければお暇つぶしにお話でも」

「迷惑だなんて・・・・・・」

手を振って否定しようとしたとき。


カランカランと心地の良いドアベルの音が響く。


「だいぶ降ってきたね」

「そうですね。積もるんでしょうか?」


いらっしゃいましたね。


言葉を笑顔で表し、玄関へ出迎えに行く文。

「お待ちしておりました、信子様。道満様がお待ちですよ」

上着を預かりながら、初対面のアキへも丁寧に会釈する。


「あ・・・・・・」

なんとも言えない間抜けな顔をし、

手を上げかけたまま固まっている道満。

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