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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒八
74/89

七十三升目。

「ども」

ウェイトレスに挨拶しながら、

広めに作られた石畳の玄関で雪を払う。


彼女は上着を預かり、奥から来たウェイターへ渡す。

道満が靴を脱ぎ、すのこへ上がる。そして上がり口。


いつの間にか、そっと、スリッパが用意されている。


小さな和洋折衷の小粋なレストラン。

一人なら絶対来ないし縁のないところだ。

そもそも入る気も起きない。むしろ避けて通る。

そんな道満にとってこの店、

{閑古}

だけは別だった。

よく叔母たちに連れて来られて慣れてるのだろうか、

ここだけは一人で訪れるときもある。

用意されたスリッパを履いて一歩踏み出し木の床を感触を味わう。


『たぶんよく来て慣れてるってだけじゃねーんだろうな』


どことなく漂う安心感。落ち着いた気持ちになる。

道満が一息ついたタイミングで、

「雪、積もりそうですか?」

下足箱へ脱いだ靴をきれいに整えたウェイトレスが、

穏やかな笑みで話しかける。

上着を渡したときについていたぼた雪を見て聞いたのだろう。

「え、えっと。まあそんな感じっス・・・・・・・だと思うっス」

顔を赤らめ視線を合わせないように店内を見回す。

「そうですか。どうぞ、こちらへ」


整っていないゆえの可愛い顔立ち。しぐさ。

彼女に合うとドキドキして落ち着きがなくなる。

いつから働いているのだろうか。

気がついたらいつの間にかウェイトレスに、いた。


そんな有様なので当然名前も知らない。


通された席でドキドキしたまま座っていると、

穏やかな笑みのまま彼女が水を持ってきた。

「失礼します。お茶はどうなさいますか?」

「あ、はいあの、いつもので」

「緑茶ですね」

「はい」

うつむき答えてから水をゴクリと飲む。

コップを置いたちょうどよいところで、

「お一人ですか?」

「お、俺入れて三人で・・・・・・なんスけど、

二人は少し遅れてくる、かなと・・・・・・」

「かしこまりました。ご用意しますのでしばらくおくつろぎください」

軽く頭を下げ、語尾を心地よく軽やかに残しながら、奥へ行く彼女。


ふぅ、と肩の力を抜く。


この店。

{閑古}

ではすぐに客をテーブルへ通さない。

一度ほとりと呼ばれる席へ行く。


客の状態や人数などを見て、このほとりで茶など出し、もてなす。

もてなすのでここでのサービスは無料。

ここで気が乗らなければ帰ってしまってもよい。


人数などを把握し、客の気持ちが落ち着いた頃合にテーブルへ案内する。


こうすることによって何を頼むか考えるゆとりを持たせ、

落ち着いて飲食を楽しんでもらおうという店だった。


すでに人数や何を頼むか決まっている客などは、

そう言えばすぐにテーブルへ通してもらえる。

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