七十二升目。閑古
「道満。あんたちょっとあそこのレストラン行って予約してきて」
「あそこのレストランって、ここ出てちょっと歩いたあそこっスか?」
「そ、あそこ」
「こんな雪の降り始めに?」
「こんな雪の降り始めだから」
「電話でいいじゃないスか」
道満の頭の上にポンと手を乗せ、
顔をのぞきこむ信子。
「いいから行ってらっしゃいな。
私たちはちょっとお話しながらお買い物するから」
気圧され、ぶりきのおもちゃのように回れ右をしながら、
「イッテキマス」
片言で返事をして歩き出す。そんな道満の背中を叩いて、
「入れるようなら先に入って好きなもの頼んで待ってて」
ニッコリと送り出す信子。
「さ、アキちゃん。お買い物、お買い物」
あっけにとられてるアキの手をとり歩き出す。
――――――
『寒い寒い寒い。つーか、なんで俺だけなんだよ』
一度駐車場へ戻り厚手の上着を車から取り出し、
羽織ってから外へ出るも、やはり寒い。
それよりも一人だけ蚊帳の外へ放り出された感じが気に入らない。
『でもなー。叔母さんにはなんか子供の頃から逆らえねぇんだよなー』
『いやそれを言えば幸太兄ぃにも甘えてたし言われたとおりに勉強もしてたっけ』
『そうか。俺、年上には弱いのかな。アキには強いし、俺』
ポケットに手を入れうわのそらで歩く。
鈍く曇った空から粉雪がぼた雪に変わって落ちてきていた。
うわのそらで歩きながらも足を滑らせないように歩く道満。
『ぼた雪かあ』
ふと我に返り空を見上げ、
「っと。っととととっと」
思わず声に出しふりかえる。
レストランを通りすぎていた。
「いけねいけね」
足元に気をつけながら小走りに戻る。
小さな落ち着いた雰囲気のレストラン。
ドアを開け、店内に入る。
「あら。道満さん」
少し茶色がかったセミロングの髪の毛をアップにまとめたウェイトレスが出迎えた。




