七十升目。
「そおねえ。何しようかしら」
「決めてなかったんスか?」
「うん。ちょっとアキちゃんとお話したかっただけだし。
それももうほとんど終わっちゃったしね。アキちゃんは何かある?」
「ボクも特に・・・・・・」
「せっかく道満使ってデパート来たことだし、遠慮しなくていいのよ?
慣れてきた生活で足りないものとかそういうのでも」
「お前服とか買ったほうがいいんじゃねーの?」
「服ならまだあるし、お金、無いし・・・・・・」
「お金なら心配しなくてもいいんだけど」
「でも、その。・・・・・・アルバイト見つけて自分で買います。
これ以上お世話になっちゃいけません」
「いや、でもそれまでの服いるだろ」
「やけに服にこだわるのね、道満」
「だって叔母さん。ほら、これ」
アキのスカートの裾を思いっきり持ち上げる。
「ちょ、ミッチー!」
慌てて手でおさえる。
「あ、悪い悪い。叔母さん、ほらここ」
今度はゆっくりと持ち上げ信子へ見せる。
「あら。ほつれてるわね」
「それとここも」
「あらあら」
慌てて道満から距離をとるアキ。
「じ、自分で直そうとしてたんだもん!」
「お前が?」
「そうだよ!だから大丈夫なの!」
「いやいや無理だろー」
「なんでさ」
「だってお前裁縫めっちゃへたくそじゃねーか」
「ぅう・・・・・・」
「何だったら俺が直してもいいけどさ。
せっかくだから新しいの買ってもらえよ」
「アキちゃん。困ったことあればすぐに言ってって約束したわよね」
「信子さん、ちょっとその笑顔怖いです」
「じゃあとりあえずは服買いに行きましょうか。
私も何か買っちゃおうかな。それにしても道満よく気がついたわね」
「俺のとりえってこれくらいっスから。
進学したら服飾の学校行こうと思ってるんスよ」
「そういえば昔からお裁縫得意だったわねー」
「アキのやつは全然ダメでしたけどね。
昔こいつと裁縫勝負し・・・・・・うっ」
いつの間にか近づいてたアキから腹にパンチを受けうめく。
「お前・・・・・・」
「それ以上あのことは言っちゃダメだよ、ミッチー」
今までに見せたことのない笑顔のアキ。
『ミッチー唯一の、そしてずば抜けた特技。油断した』
笑顔のまま奥歯はかみ締めていた。




