六十九升目。
「さー、着いた着いた。お疲れ様、道満」
「どーいたしまして。車運転するの楽しいですし」
デパートの駐車場で大きく伸びをしている信子へ声をかけながら、
後部座席のドアを開け、
「ほら、アキ」
手をさしのべる。
「ん。ありがと」
「お前は昔からどんくさいからなー」
「そんなにどんくさくないよ」
少しむっとし、頬をふくらますアキ。
「そうか?親類集まったときも、いつもなんかワンテンポ遅れてたじゃねーか」
「その時はそーだったの。いつものボクの身軽さしらないだけだよ」
「そうかそうか。お兄ちゃんはずっとお前のこと心配してたんだぜ。
ガッコーでいじめられてないかとかな」
無言でうつむくアキ。
「ちょ、おま。黙り込むなよ。
心配してたのは本気なんだからな。
学校違うからなんにもできねーし」
無言のアキ。信子も黙ったまま。
「いやさ、ほら。なんかあればすぐに言えっていつも言ってたろ。
だからさ、今回家出したのもさ、先に俺に。
つーか、あの、ええっとなんだ。あのさ・・・・・・」
うつむいたアキの顔を覗き込むようにしてだんだんと中腰になる道満。
アキの肩は震えている。
そして・・・・・・。
「ご、ごめん。ちょっと、もう、無理」
両手を口に当て涙をこぼす。
信子もうつむき手を口にあて肩を震わせている。
「ちょっと、叔母さんまで。ごめん、アキ。
あああ!そうだよ、俺はいつでも無神経だよ!
ごめん、ほんっとごめん!」
沈黙から、くく、という抑えた声。そして。
アキと信子の笑い声が響いた。
「あーーー、ミッチー面白い。
ちょっとおなか痛いよ」
涙をぬぐいながら大笑いするアキ。
「もー、ほんとね。面白い子だわ」
同じく涙をぬぐいながら笑う信子。
状況を理解できずほうける道満。
「ミッチーがそういう性格なの知ってるから。
だから大丈夫だよ。本気で心配してるのも知ってる。ありがと」
ぴょんと軽くとびはねて道満と少し離れて頭を下げる。
「どんくさいのはあんたの方だったわねー」
信子はまだ笑いがとまらずにクスクスしている。
「っ・・・・・・」
「ミッチー?」
「あら、からかいすぎたかしら?」
「・・・・・・っもそうだ。俺いつもこんな扱いだ。
ああ、もう!いいですよ!慣れました。こーいうの慣れてますー!!
つか、こういうのをいじめって言うんじゃねーのかよ」
文句を言いながら車に鍵をかけ、
「で、今日はここで何するんスか?」
ふてくされながら二人の方へふりかえる。
しかしアキが元気そうに笑った姿に安堵していた。




