七升目。
「あっちぃ」
「あっついね」
二人とも暑いと言いながら、態度は全く違っている。
幸太は汗を流しながら猫背でだるそうに。
アキはぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねて。
「でも、幸太ー。
いくら暑くてもビール飲みながら街中歩くの・・・・・・」
「これはビールじゃない。発泡酒」
「アメリカじゃ路上飲酒って捕まっちゃ・・・・・・」
「ここは日本」
「じゃー、ボクも」
「ボクもって、お前まだアイス食ってる最中じゃねーか」
「もうすぐ食べ終わっちゃうもん」
「俺ももうすぐ飲み終わるなあ」
せみの鳴き声。
頭上では輝く太陽がアスファルトに真っ黒い影を二つ焼きつける。
朝食の後、手早く片付けをしてから二人は出かけた。
あまりの暑さにコンビニへ寄り、幸太は発泡酒。アキはアイスを買った。
しかしコンビニを出て数分。二人とも飲み終わり食べ終わりかけ。
「あ!幸太。あそこ。あそこにコンビニあるよ」
「あー、あるな。あるけどそこには寄らない」
「なんで?もうボク食べ終わっちゃったし、
幸太も飲んじゃったんじゃないの?」
空になった缶を持つ手をふりながら違う方へ指を向け、
「コンビニのもうちょい向こう。そっちの右のかどのとこ。
ホーロー看板見えるだろ?」
「ほろーかんばん?」
「ホーロー看板知らないのかよ。ほら、大村崑さんがさあ」
「余計わからないよー」
「・・・・・・とにかくこっち」
幸太が早足で歩き出したのでアキも急いでついて行く。
「うっわぁあああ!!」
感嘆の声を上げたアキの目の前には昔ながらの家が一軒。
そこには様々なホーロー看板が貼られ、軒先にはビー玉やおはじき、
めんこ、ベーゴマ、銀玉鉄砲などずらっとキラキラ輝いて並んでいた。
「こーんにーちはー」
開けっ放しの戸口から中へ入り声をかける
「おー、そのやる気の無い声は幸太か」
奥から女の声が聞こえ、カラン、カキンという金属音がする。
「ねね?幸太、ここって何」
「何って、見ての通り店だろ、店。駄菓子屋」
「駄菓子ってお菓子だよね。でも見たことないおもちゃも売ってるよ」
「そーゆーのも売ってるのが駄菓子屋なの」
「へええ・・・・・・」
アキは目をキラキラさせてはしゃいでいる。
「珍しいね、今日は彼女連れか」
奥からオレンジ色のつなぎを着た初老の女が出てきた。
「違います誤解です」
「即答で否定すると逆に怪しいよ」
「曲解ですって」
「はいはい、わかったよ」
ニヤニヤしながら女は店内にあるベンチへ腰を下ろす。
その笑い顔を見て心の中でため息をついてから
「瓶ビール一本もらいますよ」
ベンチの横の冷蔵庫からビールを出す。
「初めましてっ!こんにちは!!」
店の外やら中やらではしゃいでいたアキが女に気がつき挨拶をする。
「うんうん、元気のいいしっかりした彼女だね」
「だから彼女じゃないって言ってんじゃないっすか」
ビールを持ちながら店の外へ行く幸太を無視して
「お嬢ちゃん、いい子だね。幸太にはもったいない彼女さんだ」
「え?」
「え?って本当に彼女さんじゃないの?」
「あ、ボクはアキっていいます。えっと・・・男です。今日は」
「今日は?」
「ややこしくなる事言うな」
「こいつはアキ。
一昨日からうちへ転がり込んでるんです。
こう見えて男ですよ」
戸口で振り返りながら女へ説明する。
「へええ、アキちゃんね。あたしは栄子。よろしくね。
しかし本当に女の子で彼女かと思ってたよ」
「だから違うって言ったじゃないですか」
「間違えて悪かったねえ。幸太にもこんな可愛い彼氏ができたんだね」
「えへへ、お持ち帰りされちゃいました」
アキの照れ笑い。
「栄子さん、そろそろやめてください。
アキも悪ノリするなっ・・・・・・」
外でがこんと幸太が何かにぶつかる音がして
「っ痛っえええ」
声が店内と夏空に響いた。