六十八升目。
「ありがと」
体の中が暖かくなるのを感じながら短く返し下を向くアキ。
それからふと何かに気がついたような表情で顔を上げ、
道満のシートを後ろからゆさぶる。
「ミチミチ!!」
「なんだよ?ってか、ミチミツでもねーじゃねーか」
「さっき信子さんのこと、おばさんって言ったよね?」
「あー、叔母さんだよ」
ハッと横の信子を見て、
「親族関係な意味で、な。叔母さんな」
信子は通り過ぎてゆく景色を眺めている。
「それってじゃあ信子さんはボクにも叔母さん?」
「あー。どうなんだ。俺はそういうのよくわかんねーから。
えーっと、お前と俺は両親が兄弟で従兄だろ」
「うん」
「俺のかーちゃんがお前のお父さんのねーちゃんで」
「うん」
「で、信子叔母さんは俺のとーちゃんの妹なんだよ」
「・・・・・・」
ぽかんとして座席に座り込む。
そんなアキを振り返り、
「だからね、お義母さんでいいのよ」
ニッコリ微笑む信子。
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
道満とアキの声がハモる。
「お義母さんはないでしょー」
言いながらワイパーを動かす。
粉雪がはらはらと落ちてきた。
「どうして?だってアキちゃん、幸太とつきあってたのよ」
「幸太兄ぃと!?」
思わず後ろを振り返る道満。
「危ない危ない」
信子とアキの声がハモる。
前を向き姿勢を直しながら、
「それじゃあ叔母さんは俺たちの関係、知ってたんですか?」
「関係って、あらやだ。あんたアキちゃんに手を出してたの?」
「違います!さっきすっとぼけてたでしょ。
二人は知り合いだったのね、みたいな」
「黙ってた方が面白いって事、あるのよね」
粉雪の舞う外へ顔を向ける。
「俺の悲しみは汚れちまった」
深くため息を吐く。
「なんで今、中原中也?」
道満の横へ顔を出すアキ。
「あぁ?これってこういう気分のときに使うんじゃないのか?」
「違うよ。だいたいミッチーの悲しみってなんの悲しみ?」
「ついにミチミチでもなくなった・・・・・・」
「呼びやすいからいいじゃん」
「つか、お前俺をバカだと思ってんだろ」
「うん」
「即答かよぉおお。いや、それよりお前さ」
「?」
「お前は驚かないのか?信子さんが叔母さんだったってこと。
俺はそれ以前に幸太兄ぃとお前がつきあってたとかもう今色々落ち着かねーよ」
「うーん。親類だってわかって色々納得したことのが大きいから今は驚かないかな」
「今は?」
「うん。なんでボクがこんなあっさり引き取ってもらえたり、
転校できたりしたのかなーって。不思議だったから。その理由わかったのがおっきい。
信子さん親類だったからなんだ、って」
「今日はちょうどそのお話をしようかなって思ってたの」
振り返る信子。
「でもなんだかもう大体話す事なくなっちゃったみたいね」
いたずらっぽく笑う。
「でもボク、夜になってから遅れて色々驚くと思います」
さすがにすねたように横を向くアキ。




