六十七升目。
玄関のチャイムが鳴る。
「迎えがきたわ。じゃ、アキちゃん行こうかしら」
にっこり手を差し出す信子。
明子ではなくアキと呼ぶ。
外へ出る二人。二人を見るなり、
「あぁ!?ああ!!お前!」
指を差すアキと同い年くらいの男。
茶色く脱色した短い髪の毛にエンジのダウンジャケット。
まだ着け慣れてないピアスが浮く。
はっきり言って全体的にバランスがとれていない。
ハッとするアキ。
「!?このセンスの悪さはミチミツ!!」
「人の名前をカタコトで呼ぶな!道が満ちると書いて、
みちみつだ。そういうニュアンスで呼べよ、おとこおんな」
誰がおとこおんな、とアキが口を開くより早く、信子のげんこつが道満を襲った。
道満の運転する車の中。
「二人が知り合いだったとはねー」
助手席でほがらかに笑う信子。
頭をなでつつ、
「いきなり叩くのはないでしょ、叔母さん」
ぼやく道満。
「誰がおばさん?ね?誰が?」
笑顔のまま道満の耳を引っ張る信子。
「いや、親族的にでして、特に年、痛ってぇええええ。
危ない。叔母さん、運転中危ない!」
「そうね、危ないわね」
貼り付けたような笑顔のまま耳から指を離す。
「なんか怒ってます?」
今度は耳をさすりながらぼやく。
後部座席でうつむき座っているアキをちらっと見て、
「怒ってないわ」
笑顔。
「ぜってー、なんかある。怒ってる」
「そう思うなら自分で考えなさい」
笑顔。
沈黙の車内。
「・・・・・・ったんだ」
しばらくしてアキのか細い声が沈黙をやぶった。
「ああ?なんだよ」
ルームミラーでアキをちらりと見て問い返す。
「道満、車の免許取ったんだ」
「あー、お前がいなくなってる間にな」
「そっか」
『なんだろう。相変わらず道満はなんだか嫌な感じがしないな。
いじめられてた時のおとこおんなって呼ばれ方も嫌な感じ、しない。
悪気ないのが出るタイプなのかな。ニュアンスの使い方もおかしい』
思わずくすりと笑う。
「なんだよ、面白いかよ。
留年してるから高二だけどもう十八歳になってて、
免許取れたのが面白いんですかぁ」
すねたような言い方。
子供っぽいなと思いながら、
「違うよ。そうじゃなくて、ボク家出してる間に色々あったんだな、って」
「色々あったよ。あったさ」
深く息を吸い、吐き出す。
「従兄にあんま、心配かけんな」




