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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒七
67/89

六十六升目。

信子の反応にほっとしていた。

最後に女装した日。理穂の家から逃げ出したあの日。

あれからしばらく女装はしていなかった。


あの時だってメイクなんかせず、服だけ女物で飛び出した。

それも目についた服が女物だったというだけの理由。


『こんなにちゃんと女装したのはどれくらいぶりかな』

信子に髪をなでられながら思い返す。


『幸太と一緒にいるようになって、みんなと遊んで。

女装すれば盛り上がってくれて。してなくても盛り上がって。

みんなどっちも同じで気持ちで接してくれてた』


『そうだ。最後に女装したのはみんなとご飯食べて大泣きしたときだっけ』


幸太が抱き寄せてくれて、

写真を撮った。

あの時。写真を撮った。


携帯の待ち受け。あの写真。


思わず涙が少しこぼれる。

「どうかした?アキちゃ。・・・・・・ごめんね、明子ちゃん」

アキと呼び、言い直す。

心配そうに顔をみながら涙をハンカチでぬぐう。


「大丈夫です。ちょっと思い出しちゃって。

ボクこそ心配かけてすいません」

「いいのよ、いいの」

立ち上がり明子の頭をそっとなでる。

「じゃあ、おばさんも支度するからちょっと待っててね。

おばさんはすぐ支度できるから。あ、お義母さんって言ってもいいかしら?」

笑いながらゆっくりと見守るようにリビングを出ていった。


時間をくれた。


すぐに明子は気がつく。

自分が落ち着くまで少し時間をくれたのだ。

携帯を開く。そこにはあの写真。


ぎゅっとそれを握り締める。


『大丈夫。うん、大丈夫』

深呼吸をし、コンパクトを出してメイクを直す。

しばらくして信子が戻ってきた。


「さ、アキちゃ、じゃない、明子ちゃん出かけましょ」

また呼び間違え。

しかし気にはならない。

「はい!」

元気よく返事をする。


信子もアキ、明子とへだてて考えてないことが明子にはわかっていた。

どっちでも同じ気持ちで接してくれる。それなら名前なんてどっちでもいい。


「あの、信子さん」

「?」

「明子、って呼びにくければアキで大丈夫です」

屈託のない笑顔。

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