六十五升目。
どうしよう。どうしよう。
悩んでいるうちにも時間は過ぎてゆく。
『女装するなら軽くでもメイクしなくちゃ』
そう考えると時間はもうない。
よし!と顔を上げ、服を選び着替える。
あまり派手すぎず、しかし地味にならないように、
ゴシックにもロリータにもならないように、
間違ってもコスプレみたいにならないように。
信子に迷惑をかけないよう無難な服を選ぶ。
秋から冬に近い季節。
ブラウンとピンクを基本にした暖色系。
姿見の前で確認。
少し濃いブラウンのふわりとしたスカート。
フリルの白いシャツ。
あまり主張しない薄いピンクのカーディガン。
服を決め、化粧台に座りメイクを始める。
仕上げにリップをきゅっと塗り鏡を見る。
少し長くなった髪の毛。前髪をワンポイント、ピンでとめ、
うん、とうなずく。OKだ。
必要な物を入れたバッグを持ってリビングへ。
「あらあらあらあら」
お茶を飲みながらテレビを見ていた信子が目を丸くする。
「すいません。服が、女物しかなくて」
申し訳なくうつむいたその時、抱きしめられた。
「可愛い!可愛いわあ!」
「!?」
信子はしばらく抱きしめてから手を離し、
肩に手を置き、同じ視線になるように腰を落とす。
「ごめんなさい。もう、ホント可愛くて」
「あ、あの。いえ、あ、ありがとうございます。でもその・・・・・・」
「ん?」
「ご迷惑じゃ、ないですか?」
「ぜんぜん。それより今の場合が明子ちゃんでいいのよね」
「はい」
「じゃ、名前もアキちゃんより明子ちゃんって呼んだほうがいいかしら」
「どっちでも・・・・・・大丈夫、です。どっちも似たような・・・・・・」
「じゃあ明子ちゃんで」
抱きしめた時に少し乱れた明子の髪を直しながら信子は笑った。




