六十四升目。
携帯の画像はあの日のバックヤードで撮ったものだった。
高校は絶対卒業する。
それから先は自分の力で。
まだ何をどうしたらいいのかまったく思いつかないけれど、
とにかく自分の力で皆にお礼を・・・・・・。
ふと目を開ける。視界がかすんでいる。
目をこすりながら時計を見ると十五時少し前だった。
少し寝てしまっていた。片手に携帯をにぎりしめながら。
薄手の毛布がかけられていた。
体を起こし部屋を見回すと信子がTVを小さい音で聞きながら、
干し柿を作るために渋柿の皮をむいている。
「あら、おはよう」
アキに気がつき笑顔を向ける。
「おはようございます。あの、すいません。
いつの間にか寝ちゃったみたいで」
「いいのよ。可愛い寝顔見れたし」
いたずらっぽく笑う。そして、
「もう少し経ったら起こそうと思ってたところなの」
手にしていた柿をむき終わるとまだむいていない残りを片付けだす。
「ちょっとまっててね」
むき終わった柿をまとめてキッチンへ持ってゆく。
「手伝います!」
慌てて立ち上がる。
「それじゃ、むいてない子たちを持ってきてもらおうかしら」
「はい」
一緒にキッチンへ向かう。
「さっとお湯にくぐらせた後でね、焼酎にもくぐらせるの」
大きな鍋でお湯を沸かしながら手際よく準備する。
「そうだ、アキちゃん。もうすぐ出かける事になるから、
いつでも出られるようにしておいてくれるかな?
明子ちゃんだっけ?女装してるっていう方も見たいかな」
「え?でもそれ、信子さんにご迷惑が・・・・・・」
「んー、幸太はいつも見てたんでしょ。他のみんなも。
なんかズルいなー。私だけ見たことないなんて」
「いつもってわけじゃ・・・・・・」
困り顔になったアキの両肩をつかんで回れ右をさせる。
「ごめんごめん。とりあえず支度お願い、ね」
申し訳ないという笑いをして背中を押す。
あてがわれた部屋へ向かうアキ。
幸太の隣の部屋。ちょうど空いてたからと用意してくれていた。
すっかり荷解きも済み、
あの大きなキャリーバッグはこの家の物置へしまわれていた。
着替えようとクローゼットを開ける。
「っ!?」
声にならない声。
中はほとんど女物で占められていた。
『そうだった。昨日洗濯するからと服を預けたとき男物を出したんだ』
数少ない男物を洗濯に出した当然の結果にアキは頭をかかえて座り込んだ。




